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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第96回

「会社の宣伝になってない」と言われたら、「その通り」

NTT研究者が“錯覚”サイトにかける純粋な感情

2011年06月22日 12時00分更新

文● 古田雄介(@yskfuruta

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魅せる錯覚デモを増やしていきたい

―― では、今後の目標を教えてください。

柏野 私の担当のところでいえば、錯聴のデモをもっと増やしたいですね。もっといっぱい項目があるんですよ。どうしても本業を優先してしまうので、サイトまで手が回っていないんですが、少しずつ増やしていきたいと思っています。

 全体のコンテンツでいえば、もっと魅せるデモを増やしていかないとと思っています。今は原理を説明するシンプルなデモがけっこう多いんですけど、同じ原理を説明するにしても、円と点がどうにかなるものより、実際の写真やイラスト、メロディなどを使って表現したほうが、一般の人に「おおっ」と思ってもらえるじゃないですか。

 研究者の視点だと「原理はこうなので、こういうことが起きます、以上」みたいな、骨の部分だけにしてしまいがちなんですよ。そこにもっと肉といいますか、飾りをつけていきたいと思うんですよね。

一定時間色のついた図形を見てから輪郭だけの絵を見ると、補色の残像が感じられる。その「色の残効」を説明するにも、円形を使った“骨だけ”のデモ(左)より、写真を使った“肉つき”デモ(右)のほうが、インパクトが大きい


―― エンターテインメント性の向上ですね。錯聴デモで格好いい音楽が流れるようになったり。そうなると、また別の技術も必要になってきそうですね。

柏野 そう、まさになんですよ。一応楽理(音楽理論)とかは分かるんですが、じゃあ格好いい音楽が作れるかといったら、それはまた別の話なわけです。

 研究者のセンスとデザイナーのセンスというのは、なかなか両立しないですよね。研究者は複雑なものがあったら、要素やら原理やらを分析的に見てしまうんです。デザイナーは原理を基に、複雑に材料を絡めて総合的に見せてきます。向いている方向が逆だから、両方のセンスを身に付けるのはかなり難しいんですよね。そのあたり、北岡明佳先生は見せ方が上手くて、デザイナー的なセンスが強い研究者だと思います。


―― そうなると、外注の方の力を借りるのも手ですかね。たとえば、読者に錯聴を使った音楽を作ってもらうとか。

柏野 いいですね、大歓迎です。そういう呼び込みの仕掛けも加えてみようと思います。錯聴も音楽のボキャブラリーを増やすいい道具だと思うんですよね。音楽をいじるテクニックとして、やっぱり普通に使われているものには限りがあるんですよね。切る、貼る、フィルターをかける……あるいはピッチをいじるとか。そこにもうひとつ加える材料として試してもらうのも嬉しいですし。


―― これだけアイデアがあると、サイトはロングスパンですごく進化していきそうですね。

柏野 そうですね。時間や機会があるたびに、ゆっくりでも進めていきたいと思います。さらに先にことを言えば、現在私たちの研究部では“錯触”という分野の研究を進めているんです。手触りなどの触覚の錯覚です。将来はそのタブも増やせたらと思っているんですよ。ネットで表現するのは難しいんですけど、何しろ先のことですから。近未来には、手触りさえ特殊な道具を使わずにインターネットで発信できるかもしれませんからね。まあ、そのあたりの原理は本業の分野ですけど。

「錯覚を使って、ザラザラした手触りやページをめくる感覚が伝えられる日が来るかもしれません」と、思いを馳せる柏野氏



古田雄介

筆者紹介──古田雄介


 元建設現場監督&元葬儀業者&現古銭マニア&毎週仕事で秋葉原と都内量販店に足繁く通う毎日を送る現デジタルライター。「古田雄介のブログ」ではみなさんのお勧めサイトを募集中です(6月30日まで)。ツイッターIDは@yskfuruta




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