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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第141回

ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ

2011年06月16日 18時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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通信自由化のときのような正々堂々の闘いを挑め

 さらに根本的な問題は、太陽光発電所によって何が解決するのかということだ。孫氏が「自然エネルギー」に傾斜し始めたのは「脱原発」のためらしいが、太陽光発電所は原発を減らす役には立たない。「メガソーラー」は10基すべて完成したとしても20万kW、原発1基の1/5にしかならないからだ。太陽光発電に必要な土地は原発の40倍。原発1基分の100万kWを発電するには、東京の山手線の内側の1.5倍の面積が必要だ。しかも雨の日には使えないから、それをあてにして原発を減らすことはできない。

 脱原発が目的なら、もっとも効果的なのは火力発電を増やすことだ。原子力の発電コストは、廃棄物処理や損害賠償を計算に入れると、火力とそれほど変わらないので、短期的には燃料費が増えるが、長期的には設備や再処理などのコストが節約できるので、発電コストはそれほど変わらないだろう。

 火力発電の中で特に有力なのは、天然ガスだ。最近では岩床の中からシェールガスを採掘する技術が開発されたので、コストは石炭より安くなったともいわれる。これまで天然ガスは中東が主産地だったので、政治的リスクが大きかったが、シェールガスの最大の生産国はアメリカで、埋蔵量も160年あると推定されている。少なくとも向こう10年は、エネルギー産業の主役は天然ガスだろう、というのが業界の見方だ。

 今までガスタービンはエネルギー効率が悪いといわれてきたが、コンバインドサイクルと言われる技術を使うと、ガスでタービンを回した余熱で水を蒸気に変えることによって、従来の火力発電の1.5倍の効率を実現している。工場では、高炉などに使う熱と電力を一緒に発電する熱電併給の技術も進んでおり、電力会社以外の企業が参入すれば、もっとイノベーションが進むだろう。

 しかし電力事業では、送電網を電力会社がもっているため、他の会社が参入するのが難しい。これは孫氏が「光の道」のとき主張したように、NTTがインフラを独占していると公正競争ができないのと同じだ。それに挑戦しようとしても、最低でも100億円の投資が必要なので、PPSと呼ばれる独立系の発電事業者も、財閥系やガス会社などが多くて東京電力と真剣勝負をする会社がない。

 だから発電と送電を分離して公正競争を実現し、資本力のある企業がガスタービンで電力会社に挑戦すれば、原発より低価格で発電できる。市場の競争によって原発を追放すれば、補助金も利用者負担も必要ない。それができる企業は、ソフトバンクしかない。通信自由化のときのように、孫氏が電力自由化で日本を世界のエネルギー先進国にすることができるかもしれない。


筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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