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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第25回

アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(後編)

覇権アニメ請負人ゆま氏「僕らにはカツカレーしか残されてない」

2011年06月29日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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僕らにはカツカレーしか残されていない

―― お仕事の合間とか帰宅後に、ネットの反応をチェックすることはありますか?

ゆま 「見ます。めちゃくちゃ見ます(笑)。でも自分の作品のことはほとんど見ません。Twitterや2ちゃんねるで自分の作品を検索したりとかは、あまりないですね」

―― それは意外です。

ゆま 「どちらかといえば、自分とは無関係の作品がどうなっているのか見るほうが多いかも。テレビ放送や宣伝施策という球を放り投げたら、もうあとは……なんて言うんだろうな」

―― アン・コントローラブル?

ゆま 「そうですね。むしろほかの作品で何が起きているかを見つつ、今のお客さんたちが何をどう楽しんでいるのかを見て、次の一手をどう出せばいいのかを考えたりしています。

 基本的には、オリジナルのアイデアって、もうないと思うんですよ。結局、カツとカレーを合わせたらカツカレーになりました、みたいなものしか僕らには残されていない。

 だからさまざまなアイデアを試して、とにかく攻めていく。そしてなるたけ宣伝をコンテンツとして楽しんでもらえたらいいなと」

「宣伝マンブログ」は大リーグボール1号を投げるために生まれた

―― もしかして「アニメメーカー横断 宣伝マンブログ」も、新たな球種を生み出す過程で生まれたものですか?

「アニメメーカー横断 宣伝マンブログ」は、メーカー各社の宣伝マンたちが自社作品の情報をアップする場として2008年6月にスタート。現在は12社のアニメ関連情報が一覧できる「まとめブログ」としての役割を担っている

ゆま 「そうですね。あるとき、『1作品で宣伝するのって、そろそろ限界じゃね?』と思って。

 もちろん作品によっては単体で攻めることが正解の場合もあるので、1作品でいろんなことを伝えていく手法も探り続けているのですが、それだけでは広がらない作品や場合もきっとあるだろうと思いまして。そろそろ新しい球種、それも魔球みたいなボールが欲しいと。

 そんなとき、確かアニメージュさんの忘年会で――アニメ誌には日ごろから各社の宣伝担当が出入りしています――宣伝マンが集まる機会があったんですよ。そこで交歓した人たちに『なんか一緒にやりません?』と声をかけて。

 TwitterにおけるTogetterとか、2ちゃんねるにおけるまとめブログとか、“散らばっている情報を集約したポータル的サイトを見る”というカルチャーがここ数年盛んですよね。それをメーカー主導でやったらどうなるか、という実験として立ち上げました」

―― なるほど。

ゆま 「で、それを続けていく中で、メーカーのコラボをもう一段階ステップアップさせようということで試したのが、ジェネオンさんの『禁書目録II』と、うちでやっている『俺妹』。この2つの作品をガッチャンコして宣伝したら大リーグボール1号みたいな魔球が投げられるんじゃないかと思いまして(笑)」

―― お客さんにしてみたら、いつの間にかマウンドにピッチャーが何人もいて「うわ、一斉に球を投げてきやがった!」みたいな感じですね。

ゆま 「そうですそうです。宣伝を楽しんでもらうにあたって、1作品のみの仕掛けでは、どこかで頭打ちになるだろうと。そこで先ほどのカツカレーを実践してみたわけです」

―― 手応えは感じましたか。

ゆま 「メーカー間の垣根は相当低くなってきた気がしますね。自分もいろんな縛りを壊したいタイプですし、宣伝のアイデアを練るときも『この作品と一緒にできるモノはないかな?』って考えたほうが選択肢は広がりますしね」

―― それでいくと、現在話題になっている『TIGER&BUNNY』の手法も魔球の1つかもしれませんね。

ゆま 「言うなれば作品と企業という形のコラボ。『プロダクトプレイスメントだろ』のひと言で終わらすこともできますが、そのキャッチーな仕掛けに作品自体のシナリオや演出の面白さが混ざり合って、凄い作品になっていると思います。やられたー!って感じです(笑)。僕も毎週楽しみに拝見させて頂いています」

「『TIGER&BUNNY』は作品と企業という形のコラボで、もっと言ってしまえばプロダクトプレイスメント。でもファンはそれを楽しんでいるように見えるので、仕掛けとして凄いなと思います」(ゆま氏)

―― これは邪推かもしれませんが、他社とのコラボが実現し始めた背景には、昨今のご時勢による宣伝費削減への適応行動という側面もあるのでしょうか?

ゆま 「正直、そこの読みも多少はありましたね。同じことをやるにしても、コラボすれば半分で済みますから」

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