HDオーディオ投入でついに8畳間が映画館になった!
鳥居 「じゃあ、BD再生もできるし、HDオーディオにもきちんと対応しているPS3と組み合わせて、もう一度鑑賞してみよう。第1巻のクライマックスになる、ユニコーンガンダム発進の場面だ」
太田 「このシーンはいいですね。何度見ても鳥肌が立ちます」
鳥居 「ここは、純粋にオーディオクオリティーの高さが要求されるシーン。安彦良和さんが作画しているのかと思うくらい、映像も感動的なのですが、声優の演技とオーケストラによるBGMが映像の力を何倍にも高めています。ここのBGMの入り方なんてまさに鳥肌ものでしょう」
太田 「これが連邦のMSの性能……いやドルビーTrueHDの実力ですか!」
鳥居 「圧縮とは違うのだよ、圧縮とは!……えー、ダイナミックレンジが広がり、音の迫力という点でも申し分ないです、はい」
現在の音楽再生の主流がMP3やAACといった圧縮音声が主体になっているように、圧縮音声技術は決して音質的に悪いものではない。情報を間引くといってもさまざまな研究の下、他の音に隠れてしまって聞こえない音を間引くので、よほどビットレートの低い音声信号でもない限り、大きな差はない。
しかし、個人的な印象としては「ドルビーTrueHD」などのHDオーディオの場合、ダイナミックレンジ(音の大小の幅)に違いがあると感じることが多い。これは主に高域の情報量が減ってしまうことによる、細かい音の変化や余韻が薄れるなど、気配のようなもの再現に差が出ることも関係する。S/N感も向上するようで、息づかいのような小さな音から爆発の大音量までよりダイナミックに再現されるのだ。
そのため、情報量が増えたように感じるし、声優の演技もちょっとした息づかいや抑揚の違いまで伝わってくる。BGMも、声や効果音を邪魔しない音量バランスでありながら、雄大でスケール感たっぷりに再現される。単純な迫力というより臨場感がケタ違いとなるのだ。
鳥居 「続いてもうひとつ、第3巻で僕が最も好きなシーンを観てみましょう。またまたユニコーンガンダムのコクピット内ですが、ダグザ中佐とバナージの別れのシーンです」
太田 「あっ、ヘルメットがぶつかるゴツッって音が!! しかも僕のおでこのところで聞こえましたよ」
鳥居 「“お肌の触れあい通信”(宇宙では本来、音は伝播しないので、身体を直接接触させることで振動を伝えて会話すること)ですね。
これが普通に前方のスピーカーから聞こえても、よほどのマニアでないとそれには気付かない。だから、下手をすると『こんな感動的なシーンなのに、どうしてこんなムサいおっさんのアップが続くの?』なんてことになっちゃう」
太田 「バナージのヘルメットに直接触れているからこその、極端なクローズアップだったのか」
鳥居 「ストーリー的にも、バナージへのメッセージというより、見る人へのメッセージでもあるんです。だからこその演出ですね」
このように、サラウンド音声を採用した作品では、音の演出も作品と密接に繋がっている。高画質なだけではその作品の魅力は半分程度になってしまうということもわかってもらえると思う。
そして、こんな細やかな演出のひとつひとつまで気付かせてくれる再現力が、ドルビーTrueHDなどのHDオーディオの威力と言えるだろう。『ガンダムUC』に限らず、大好きな作品ならばここまで味わい尽くしたい。そのためにこそ、「YSP-2200」のようなサラウンドシステムは不可欠なのだ。
宇宙世紀の世界へ跳ぼう! 『ガンダムUC』の音響(3)
文=氷川竜介
「機動戦士ガンダムの効果音を再現する」――原作・福井晴敏氏のこだわり
ここでガンダムシリーズの大きな魅力でもある「戦闘シーン」の音響についても『UC』ならではのポイントをピックアップしておこう。
小説版全10巻を書きあげ、アニメ版でもプロデュース面含めて大きな役割を果たしている福井晴敏氏は、自宅に大規模なシアタールームを設置し、AV雑誌にも連載を持つなど、徹底してアクション映画とその音響にこだわりをもつ小説家である。今回の映像化に際しても「ファーストガンダムと同じ音響会社(フィズサウンド)による効果音」という要望を、何にも増して率先して出したという。
オリジナルの効果音は松田昭彦氏によるもので、たとえばビーム・ライフルには工作に使うグラインダーの駆動音を加工して使うなど「キャラの立った」音づけをしていた。ガンダムの活躍とシンクロして記憶に刷り込まれるほど強烈なアイデンティティーを持つ音だ。
ユニコーンガンダムもその音を継承している。第1話クライマックスで同機は起動した直後に一歩を踏み出すが、そのときの足音もRX-78初代ガンダムに合わせてある。音ひとつで「ガンダムが歩いた!」という実感が出る。効果音がいかに大きな役割を果たしているか、分かるだろう。
ガンダムシリーズのモビルスーツ戦では、いくつか種類の違う武器が使われる。光弾を直線状に放つビーム兵器や、これを剣の形に封じこめたビーム・サーベル、実体弾を撃ち出すバルカン砲、バズーカ、さらに自ら燃料で推進するミサイルが存在する。これらそれぞれ違う原理の兵器に、それぞれ違う個性の効果音が付けられているのも、戦闘の臨場感を盛り上げる。
また、5.1chにおける音同士のセパレーションの良さを利用し、多重・多層に音が配置され、それがアニメーションの絵の変化とシンクロし、時間軸にそって展開していく様子も、大きな聴きどころだ。
たとえばビーム・サーベル同士の戦闘も、抜刀してエネルギーが励起し、斬り結ぶときにIフィールドが干渉してうなり、装甲に当たると金属が溶融して気化するなど、段階によって音が変化する。ついに爆発してそれが迫ってくる様相も、遠い音、空気の圧力が放射して拡がる音、背後へと抜けていく音と何段階かの変化が、サラウンドの性能を充分に引き出す。
アニメは音響で命を吹き込まれる
複数の音が入り乱れつつ「宇宙世紀」という架空の時代で活躍するキャラクターたちの生きる「世界」が描かれる。
音響自体もまさしく「命を吹き込むという意味でのアニメーション」の役割を果たしていることが分かっていただけるだろうか。
アニメを含む映画は映像と音が揃って初めて成立するものである。気づきにくいだけに、深層心理に作用する役割を果たす音響に、さらなる関心が深まることを期待したい。