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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第24回

アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(前編)

「ゴミ屑みたいな社員」(本人談)から、宣伝プロデューサーに

2011年06月11日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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ゆま氏の転機になった『ブラックラグーン』事件とは?

―― では、転機が訪れたのは?

ゆま 「ええとですね、1人で任された初めての作品が、2007年1月の『ひだまりスケッチ』だったんです。これも当初はイロハを守り、基本に忠実に情報を出して、アニメ誌に記事をしっかり載せていただく……というやり方でした。

 しかしその『ひだまりスケッチ』の宣伝中に、予期せぬことが起こってしまったんです。

 2007年の2月にイベントを開催したのですが、初めてのイベント運営ということもあって余裕がない状態。お客さんは300人、主演の声優さんもいらっしゃる場でした。

 そのなかで、今となっては笑い話ですが、当時ノートパソコンのデスクトップを『ブラックラグーン』のレヴィという、うちと関係ない作品のキャラ壁紙にしたまま、パワポを会場スクリーンに映し出していたんです」

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―― それは明らかにフラグが立ってますね(笑)。

ゆま 「当然パワポは全画面表示にしていたので、普通に操作している限り、壁紙が映ることはなかったハズなんですが。パソコンって放置するとスクリーンセーバーに切り替わるじゃないですか。そのドサクサで『ブラックラグーン』のレヴィが会場のスクリーンに出ちゃったんですよ!」

―― 会場の反応は?

ゆま 「それが……ちょっと盛り上がったんです。雰囲気的には『なんだかバカな感じになったなぁ』という。

 もちろん失敗ではありましたが、ただ、そういったハプニングでもお客さんは楽しんでくれるんだということは、わたし自身驚くとともに発見でした」

―― それはイベント後のネットの反応なども含めて、ですね。

ゆま 「そうですね。イベント自体もトータルで見れば盛り上がりまして。『ああ意外と、こういうのもなくはないんだ』と。もちろん、“他社作品の画像をスクリーンで大写し”自体はやっちゃいけないことですが(笑)。

 なんというか、アニメファンの楽しみ方みたいなものの新たな側面を垣間見れたのですね。これが『スタンダードな直球以外に、変化球を投げるにはどうすればいいのか』と意識し始めたきっかけです」

―― 以降、変化球も織り交ぜて宣伝するようになった。

ゆま 「ただし、作品によってはその変化球が向かないこともあります。『ひだまりスケッチ』が2007年3月に終わった後、『劇場版 空の境界』という作品を同年12月から担当したのですが、こちらは一転して伝奇物で作風もシリアスでした。この作品では宣伝に遊びを入れることは逆に控えました。

 作品ごとに投げるボールを使い分けて、王道なら剛速球を投げ、お客さんが変化球も楽しんでくれるならば、それも織り混ぜつつ。作風やファンの求めているもので、自分の投げる球種は変えていけるようにと、いろいろ練習していました」

―― まるでピッチャーの心境ですね。

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