まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第24回
アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(前編)
「ゴミ屑みたいな社員」(本人談)から、宣伝プロデューサーに
2011年06月11日 12時00分更新
『ゆま』という存在が、アンチを生み出してしまう
―― 今どきのアニメのコアファンはネットアクティブですから、コンテンツ化した宣伝を打ったあとの「ざわざわ」を確認することは、昔と比べて簡単になったのでは?
ゆま 「だと思います。はい」
―― 一方で、そのざわざわの質の見極めは非常に難しいのでは。ちょっとしたことで逆に振れて炎上するリスクもありますよね?
ゆま 「あります、あります」
―― そこはどう対処されているんでしょう。きわどい企画ほどリスクは高くなりますよね。製作委員会の会議で「こうやります」って言ったときに、たぶん面白いプランであればあるほど、みんな一斉にドン引きすることも……。
ゆま 「あります、あります(笑)。
それに関しては自分の感覚、『俺だったらこれ、楽しいぞ!』を信じるしかないというのが正直なところですね。もともと中学生ぐらいからずっとアニメ好きで、今でも好きなので。
とはいえ、製作委員会はあくまでビジネスの場ですから、『コレをやったら、アホなことやってるなあってファンの方が楽しんでくれる』というゴールを決めてから、逆算で理論武装を無理矢理する感じです(笑)」
―― それでも失敗してしまうこと、ありますよね? するとお客さんからわっと反発が来る。
ゆま 「いやあ~たくさん、あります!」
―― そういった、旗色が悪くなった際の経験を教えてください。アニメ作品の宣伝に限らず、Twitterなどを使ってマーケティングされている方は気になるところだと思います。
ゆま 「大前提として、お客さんというかファンの方が嫌がることは、なるべくしないようにと思っています。そして、そうだな……ちょっと話がそれてから、1回戻るんですけど。
『ゆま』というニックネームでネットに出没したのが2007年の後半で、最初はアキバBlogで2週間に1回、宣伝のためにコラムを書き始めました。宣伝するための一個のツールに自分自身を昇華できたら、作品の役に立つなと思って。
そこで感じたのは、僕自身をたぶんあんまり好きじゃない人もいるってことなんです。僕という存在が、アンチを生み出してしまうときもあって」
―― なるほど。
ゆま 「あいつが担当? また余計なことをするんじゃないのか、みたいな(笑)。そもそも、宣伝に携わる人間が作品の矢面に立つことって、カルチャーとして何年も前からあるわけではないですし。
唯一、ジブリの鈴木さん(鈴木敏夫氏)はプロデューサー兼宣伝広報として、すごい存在感がありますが、あのぐらい大御所の方でないと世間には認められない部分があると思います。そんななか、僕たち若い世代がある種、実験的にやってみたところもあるんですよ。
けれども、名前を出して自分を1つのツールに変換した際、当然それを嫌う人もいて。『あいつがやってるのは炎上マーケティングだ』みたいな批判も浴びますし」
―― 必ずそういう反応ありますよね。
ゆま 「すごくよく覚えているのは、『化物語』という作品を2009年に担当していて、テレビ放送が終わったあとに配信もやってみようという話になりました。再放送ではなく、テレビ放送と同じ尺の新作を配信のみで展開するわけです。この仕掛けはその後、『俺妹』などにも採用されました。問題は、その配信がなかなかアップされなかったんです。
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―― そうでしたね。
ゆま 「ずっと『すみません、すみません』って謝って。ついに公開された作品は見事な出来映えだったんですけど。その途中で、この期限ならばさすがに上がるだろうというタイミングだったにもかかわらず、諸般の事情で遅れてしまったことがありまして。そのときに、ネットで山ほど『死ね』って書かれたんですよ」
―― 愛情の裏返し、ではありますが……。
ゆま 「当然期待するが故に。裏切ってしまったので。死ねって言われても仕方ない状態だったんです。
そんなとき、自分の名前を出しながら宣伝すると、余計な火の粉を招いてしまうというか。僕は、アニメファンって、作品の愛し方や楽しみ方、純粋さ含め、あらゆるエンタメ愛好家の中で世界一カッコ良くて素晴らしいファンだと思っているんです。みんな純粋に作品を好きで応援してくれているが故に、その気持ちを裏切った瞬間、ベクトルが180度変わってしまう。
Twitterを使うときも、ネットでいろいろ仕掛けるときも、なるべく裏切らないようにはしたいし、そうありたいと思っています。ですが、裏切ってしまったときの、なんというか温度の変わり方というのは、今でも怖いですね」
―― 名前を祐馬から「ゆま」に変えたのは、自らをツールにするための儀式というか、必要なステップだったのかもしれませんね。そうすることで、製作委員会とは違うスタンスで語れるし、ファンにもある程度は自分たち側の人間だと受け止めてもらえる。暗黙の了解みたいなものが成立しているのかもしれません。ですから裏切った途端、人一倍非難を浴びる。
ゆま 「ゆまって名前は、男子か女子かよくわかんない中性なイメージなので、その点はいいなと思っています。たまにイベント会場で『女性だと思っていました』と結構しょんぼりされることがありますけど(笑)。
◆
後編ではテレビとネット、パッケージと無料配信に関する私見から、「アニメメーカー横断 宣伝マンブログ」の立ち上げ話、そして総合Pを担当した「アニメコンテンツエキスポ」の諸エピソードなどを披露していただく。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ』(インプレスジャパン)、『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)も好評発売中。Twitterアカウントは@a_matsumoto
まつもとあつしの新刊『スマートデバイスが生む商機』出版記念セミナー開催
本連載の著者・まつもとあつし氏の新刊発売を記念したセミナーが、6月22日(水)にデジタルハリウッド大学大学院 秋葉原メインキャンパスにて開催されます。
ゲストにフリージャーナリストの西田宗千佳氏、バンダイナムコゲームスの山田大輔氏などを迎え、「スマートフォンやタブレット端末の登場によるプラットフォームの変化が、ビジネスやクリエイティブにどのような影響を与えるのか?」をテーマに、まつもと氏とディスカッションを繰り広げます。
セミナーの詳細、お申し込みはこちらから。
セミナー概要 | |
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日時 | 2011年6月22日(水)19:30~21:00(開場19:00) |
会場 | デジタルハリウッド大学大学院 秋葉原メインキャンパス |
講師 | 西田宗千佳氏(ジャーナリスト)、山田大輔氏(株式会社バンダイナムコゲームス)、掛端俊希氏(デジタルハリウッド大学大学院 7期生)まつもとあつし氏(著者/ナビゲーター) |
定員 | 50名 |
費用 | 無料 |
主催 | デジタルハリウッド大学大学院/インプレスジャパン |

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