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大河原克行が斬る「日本のIT業界」 第22回

デジタルネイティブにも活字を読む癖を

朝日新聞デジタルの勝算は販売所のやる気次第?

2011年06月06日 09時00分更新

文● 大河原克行

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第2の創刊という意気込みを語るが……

 発表会見では、今回の朝日新聞デジタルの創刊に向けた、同社経営部門の並々ならぬ意志が伝わってきた。

 「130年以上の歴史を持つ朝日新聞にとって、第2の創刊ともいえる意気込みで取り組んできた。長年、デジタルによる情報発信をもうひとつの軸に据えられないかと考えてきたものを形にした。紙と電子のコラボレーションにより、新たなメディアの形を作りだし、ハイブリッド型メディアとしての進化を目指す」と、朝日新聞社役員待遇デジタルビジネス担当兼コンテンツ事業本部長の佐藤吉雄氏は語る。

会見の風景

 編集担当する朝日新聞上席役員待遇編集担当の吉田慎一氏も、「これまでは、北海道、東京、大阪、西部の4つの本社が地域ニュースをそれぞれに配信していたが、47都道府県の情報をすべてを全国読者に配信することができる。朝日新聞が初めて全国紙として読者にコンテンツを提供できるようになる」とする。記者にも動画撮影が可能なカメラを所持させ、動画や静止画のオリジナル映像も掲載することになるという。

 だが、いくつかの点で手探りであることも感じざるを得なかった。

 例えば、1995年からスタートしたアサヒ・コムとの位置づけをどうするのかといった点でも、最終的な整合性が取れていないように感じた。

 会見では、「並存させ、棲み分けていく」と表現したものの、有料コンテンツである朝日新聞デジタルと、無料コンテンツであるアサヒ・コムをどう並存させていくのかといった舵取りは難しい。

 例えば、アサヒ・コムは速報性をベースにした媒体として、朝日新聞デジタルと棲み分けていくというが、24時刊で提供されるニュースの速報性や、広告展開などにおいても競合する可能性は捨てきれない。

 朝日新聞の紙面からアサヒ・コムに誘導していた表記は、朝日新聞デジタルへと誘導するように変更されるなど、アサヒ・コムの立場が微妙に変化しており、今後のポジションがどうなるかも気になるところだ。

 異なる事業組織で運営されている媒体だけに、自然と競合意識は社内にも芽生えざるを得ない。

 さらに、デジカメをもって記者自らが動画撮影までを行うという仕組みの徹底にはまだまだ時間がかかるだろう。支局ごとによって、温度差が出るのは明らかで、記者によって差があるデジタルスキルを埋める必要がありそうだ。

 また、会見ではデジタルビジネス事業や編集、販売を統括する役員あるいは役員待遇とされる人物が雛壇に登場したが、記念撮影の最中、手に持ったデバイスの画面が消えると、横に待機した担当者が飛んでいって、画面を表示させる作業をするなど、登壇した経営トップが、直接デバイスを触ることが少ないことを露呈するような場面があったことも気になるところだ。デバイスで読むことを前提する電子版を実際に触ることが少ない経営層の舵取りで成果があるのかといったことも、老婆心ながら気になった。


競合を意識した料金体系

 今回の会見では、「朝日新聞デジタルの創刊に当たっては、電子版で先行する日本経済新聞や、欧米での電子媒体を参考にした」というコメントが何度か聞かれた。

 料金設定や配信方法などでも日本経済新聞電子版を参考にしたという。そして、紙と電子版のセット販売も日経を参考にしたようだ。

 朝日新聞社取締役販売担当の飯田真也氏は、「朝日新聞販売所であるASAでは、日経新聞の300万部のうち、4分の1を取り扱っている。日経電子版に関する要望なども数多く集まっており、それを参考にした」と語る。

 PDFでの配信を行わないことを決定したのも、PDFで配信している日経電子版を反面教師として参考にしたものだ。

 「PDFで配信するメリットはあるが、電子版での利用を考えた場合、24時間更新をし続けて配信することがPDFでは難しいこと、それぞれの端末向けに見やすいように改良しても、使いにくい部分がどうしても残る」と、その理由を語る。

 朝日新聞社の課金・認証サービスであるJpassを利用し、クレジットカード決済としたのも、日経電子版のカード決済方式を踏襲したものだといっていいだろう。

 「日経電子版の1年間の取り組みを、主にビジネスモデルの点から参考にさせてもらった」と言ってはばからないように、いい点、悪い点を取り入れたのが朝日新聞デジタルだということができる。

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