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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第17回

成功の鍵は「ガイナックスの利益」を考えることだった

車のCMではなく、本気のアニメを――スバルの挑戦【後編】

2011年06月04日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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「4年経ったら違う車になっちゃいますよ」

鈴木 最初にご相談したとき、ガイナックスの高橋さん(高橋祐一氏:ガイナックス アニメ制作部プロデューサー)から、「鈴木さん、うちでそういうオリジナル作品を作ろうとしたら4年ぐらいかかりますよ、4年経ったら違う車になっちゃいますよ」という話をされまして。


―― 条件が合わなかったわけですね。

鈴木 広告制作とアニメでは、1つの作品の制作期間が違うんですね。そうした時間軸の考え方のズレが若干ありました。

 試行錯誤を経て制作をスタートしたときも、短期間にすごい勢いで作っていただいたとは思うのですが、擦り合わせは結構大変でした。打ち合わせも、「4年間分」を凝縮させるべく、数をこなして、密度も濃くしないといけなくて。

 実際に作ってみると、作られたアニメを観ているだけでは分からないことがたくさんありました。すべてにおいてこんなに真剣にやるんだ、と。皆さん、まさに職人という感じでした。


―― ガイナックスは職人的なマインドを持っているとのことでしたが、鈴木さんが一緒に作品作りに携わって、大変だったことはありましたか。

鈴木 「プレアデス」の中に木造校舎が登場しますよね。あれ、実際にロケハンしたんです。ガイナックスさんから「木造の廃校に泊まりたい」というお話が出まして、ロケハンがてら、群馬の山奥にある廃校に合宿をすることになりました。

 当然、僕も廃校に連れて行かれました。夏だったんですけど、エアコンもないし、虫はすごいし。夜になるとめっちゃ怖いんですよ。ロケハンもお昼までで終えればいいのに、やっぱり夜も廃校で打ち合わせ。でも、ガイナックスの高橋さんからは「こういうリアルを体験することが大事なんですよ」と力説されて。みんなで班みたいに学校の机を合わせて一緒に打ち合わせをしました。

 確かに仕上がった作品を見てみると、精巧に再現しているし、空気感まで伝わるような作り方がされている。リアルな実感に基づいているんだろうなというのが、出てきたものを見ると非常によく分かりますね。でも、そういうところが「やり過ぎ」に見えるのかもしれないですね。もちろんいい意味で、ですよ。


―― 今回の場合、発注元はスバルですよね。いわゆるクライアントさんにも、「一緒に廃校に泊まって下さい」というのは少し驚きました。

鈴木 こちらとしては、ガイナックスさんの関係は完全に対等だと考えていたので、議論もかなり戦わせました。彼らのアニメに対する姿勢が非常に前向きなので、スバル側からするとムチャだと思うことも提案してくるし、こちらもお客さまに向けたものにするため、もう少しこうした方がいいんじゃないかという話もさせていただいて。いい経験でした。

 結局、「プレアデス」のシナリオもゼロから起こしていただいて、監督の佐伯昭志さんも新しいことをやりたいということで、かなり細かく作り込んでいただいたんですね。

(次ページに続く)

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