リーク電流対策の本命?
トライゲート・トランジスター
これらに続く手法としてインテルがずっと開発し続けていたのが、今回のお題となるトライゲート・トランジスターである。インテルがこれを最初に発表したのは2002年のこと。その後も開発の手を緩めずにきた。
最終的に、2009年に発表した22nmのSRAMで基礎研究は終了。そのまま「量産段階に持ち込めるレベルに達した」と判断され、2年かけて今度は量産のための技術開発が進められていた。これが一段落し、量産が開始できると判断されたことで今回の発表となったもようだ。
トランジスターを三次元構造にすると何がいいか? 今回のトライゲート・トランジスターの構造は左下のスライドのようになっている。このスライドを図2と同じ向きで描くと、図4になる。左下スライドの右側を90度水平に回転させたのが図4、と考えていただければいい。
これまでのトランジスターでは、チャネル(ソースとドレインをつなぐ部分)はゲートのごく近くに限られていたし、長さはともかく幅は狭い範囲に限られていた。プロセスを微細化するとどうしても幅が狭くなるため、ある程度の電流量を確保しようとすると、電圧を上げる必要がある。しかし三次元構造を採用することで、チャネルの幅がずっと増えることになり、これによって抵抗が減るという理屈である。
言うなれば、これまでの平面型(これをプレナー型と呼ぶ)トランジスターは、細いホースで水を送ってるようなものだった。ある程度の流量を確保するには水圧を上げねばならず、そうするとあちこちで漏水が発生してしまう。トライゲートはそれを太いホースに交換したようなもので、水圧をあげなくても十分な流量の水をスムーズに送れるようになり、水圧が低いから漏水の可能性も大幅に減るというわけだ。
トライゲートではもうひとつ、SOI的な効用もある。SOIとは「Silicon On Insulator」の略で、IBMが開発してAMDが全面的に採用したことで、おなじみの手法である。SOIはその名のとおり、「絶縁体(Insulator)の上にシリコンを構成する」というものだ。実装としては「PDSOI」(Partially-Depleted SOI、部分空乏型SOI、スライド左)と「FDSOI」(Fully-Deplated SOI、完全空乏型SOI、スライド右)がある。
SOIではシリコン基板の下に絶縁層(Oxide)があることで、原理的にサブスレッショルドリーク電流が少なくなるほか、通常のシリコン基板と比較して高速動作が可能になり、その余裕を省電力化に向けることもできる。また絶縁層がある関係で、ノイズや放射線への耐性が通常のシリコン基板より強い。SOIが開発された当初は、航空宇宙関係など放射線への耐性が必要な製品に多く利用されていたほどだ。
その一方で、PDSOIはそれほどコストがかからない代わりに、絶縁層の厚みを均一に保つのが難しく、特性が変化しやすいというデメリットがある。FDSOIは安定した特性を持つ代わりに、ウェハーのコストが大幅に上がるというデメリットがある。そのあたりをインテルは嫌っていた。これがトライゲートになると、構造的にはPDSOIの延長で作成可能で、高価なFDSOI対応のウェハーを使う必要がない。その割に特性はFDSOIに近いということで、いいことづくめというわけだ。
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