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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第93回

探検コムの「広く浅く」が深すぎる!

2011年05月11日 12時00分更新

文● 古田雄介(@yskfuruta

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サイトをやって良かった2つの出来事


―― 個人的に特に興味深いのは、「幻の国立産業技術史博物館」です。展示品はもちろんですが、博物館の建設計画が中止になったことを個人が追っていたのがすごいと感じました。広く浅くということですが、博物館の情報も「浅く」のレベルで追っていたんですか?

探検コム いや、最初は(編集者としての)仕事のネタ探しから。仕事の情報は、部下にも「現場に行って探せ」と言っているんだけど、俺ネット小僧だから検索が超得意。こっそり自分だけネットで特ダネ探してきたりしてんの(笑)。それでネットでマイナーなところを探っているときに、国立産業技術史博物館について書いている大阪のローカルな記事を見つけて、「おっ、これすげー」となって取材に行ったんですよ。

 でも、誌面のスペースはほんのちょっとしかなかったから、すごく面白かったのに撮った写真もあんまり載せられなくてね。裏も取って、写真の産業機械を詳しく語れる状態になっているのに。もったいないじゃない。だから、自分のサイトに載せちゃったわけです。

幻の国立産業技術史博物館。江戸時代に使われていた木製クレーンや、明治の輸出産業を支えた紡績機械などを写真つきで解説している


―― ああ、気持ちは分かります。でも、仕事じゃない記事を同等の手間をかけてサイトにアップするのは、やる気の面でも大変じゃないですか? 10年以上もハイペースに更新していますし、モチベーションはどう保っているんでしょう。

探検コム う~ん、実はそんなにモチベーションは高くなくて、けっこう低いままゼロにはならずに続いている感じかな。もう飽きてて更新も面倒くさいと思っている反面、たまにすごく気持ちが盛り上がることもあって、それを期待しているところもあるんですよ。

 たとえばね、「インターネットってすごいな」と強く思ったのは、『オーストラリア「木曜島」へ行く』という記事の反応。木曜島はオーストラリアの島で、第二次世界大戦の頃までは日本人が真珠貝を求めてたくさん住んでいたの。それで司馬遼太郎が『木曜島の夜会』という小説を書いてたから、俺昔木曜島に行ってみたんですよ。そのレポートを書いたら、なんと『木曜島の夜会』の主人公のモデルになった人の親族から、「司馬遼太郎以外の主人公の資料を初めて見ました」ってメールが来たわけ。そんな人から連絡がくるってすごいじゃない。あのときは本当にサイトやってて良かったと思ったね。

 サイトを続けていたらそういう貴重なつながりができるし、資料を載せていたら「その資料使わせてくれ」という連絡が来て仕事上の財産も増える。そういう期待はけっこうあるかな。

『オーストラリア「木曜島」へ行く』。特に初期の頃は、レアな資料を掘り起こしたコンテンツだけでなく、旅行好きな側面から現地に足を運んだレポート記事も頻繁に掲載していた


―― なるほど。いい意味で蜘蛛の巣みたいな感じですね。受動的なコネクション作りというか。

探検コム そうそう。あともうひとつ、社会的にやらなきゃいけないって勝手に思っていることもあってね。確か2000年頃だったけど、小学生からメールをもらったんですよ。「学校の先生は『戦争はひどいものだ』と言っています。でも、僕は戦争は格好いいものだと思っていて、どうしたらいいのか分からなかったんです。だけど、探検コム見たら、戦争は格好いいものと思っていいんだっていうふうに書かれていて、すごく面白かったです」って。確か小学6年生くらいの子。すごいでしょ。(戦争資料館参照)


―― 価値観が押しつけられそうな子供に「多様性があっていい」と気付かせるのは、確かに意義がありますね。

探検コム でしょ? ちょっと前まで「日本人はみんな一緒」って世界から言われてたじゃない。その流れのなかで個性を伸ばす方向に持っていくというか、「人のいない道を行け」と言ってやれたら、社会的に意義があると思うわけ。

 価値観がある程度固まった大人の人から「サイト面白いですね」と言われるのももちろん嬉しいけどさ、これから価値観を作っていく小学生に「僕はどうやって生きていいか、分かりました」みたいに言われたほうが圧倒的に面白いじゃない。あのメールをもらって、本当素直に「俺頑張る!」って思えたの(笑)。

 それがあってからは、「マニアに勝てないからメジャーを省く」という理由だけじゃなく、積極的にマイナーなところを攻めていこうと思ったんですよ。商業的には回りにくいけど多様なところ、ロングテールの部分を攻めていこうって。あと、“吉原の歴史”みたいな資料は別として、あんまり下ネタ系は扱わないようにしようと意識しましたね。

探検コムの別館「戦争資料館」。旧日本軍の戦争の歴史を、客観的な資料を元に解説している。サイトのタイトル下にある「平和を欲するなら、戦争を理解せよ」の文言に、氏のスタンスが覗く

(次ページに続く)

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