音楽のおいしいところを聴かせる、絶妙な味付け
深夜の会議室でiPod Classicに保存した5000曲以上の楽曲から、クラシック、ボーカル、サウンドトラック、ロックなどをピックアップして聴いた。気付かなかった音の表情や演奏者のニュアンスに何度もニヤリとさせられる。とても楽しい体験だった。
もちろん聴き進めば限界も見えてくる、例えばグランカッサの一撃を聴くと最低域がバツンと切られている。ピアノの響きも、弦のうなりや空間に残る残響など、楽器特有のディティール感が乏しく、中抜けしているような印象があった。
しかしこうした分析的な意味での欠点とは別に音楽のエッセンスをより分かりやすく伝える魅力がこの製品にはあった。
ブンブンと前に出てくるダブルベースにはきちんとした音階感があるし、わずかなタメのあとブワっと広がるバスクラリネットの質感はゾクゾクさせる。女性ボーカルは滑らかかつ爽やか、鉄琴の音は澄んでいるし、打楽器やギターの速いアタック感も表現する。
量感一辺倒ではなくタイトさや明晰さも兼ね備えているのがDS9000なのである。付帯音が少なく透明感ある再生はiPodデジタル接続の強みと言えるだろう。高価なヘッドホンでも埋もれがちな音楽のニュアンスが前に出てきてハッとさせられることもしばしばだった。
またスケールの大きさだけでなく、小音量時の再生でも十分な品質だと実感できた。ボリュームの最小位置からリモコンで5段階ほど上げた位置(iPod上の目盛で1/10以下)で聞いてみたが、低域はきちんと残り、中音・高音域も音の粒が分かれていた。深夜控えめにBGMを流すシチュエーションでも活躍してくれるだろう。
以下試聴ソースからいくつか選んで感想を書く。
主な試聴曲と聞きどころ([ ]内はトラック番号)
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Road Home
HEART
ロックのライブ録音。[13]では、芯のあるアコギとドラムの響きがよく冒頭からノリノリ。リフを引くギタリストの指づかいや、ドラマーの手数の多さなど細かな表情が前に出てハッとする。歓声もステージとの近さを感じさせリアル。
ソースとの相性:☆☆☆☆☆
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Resonances
Hélène Grimaud
ピアノ曲。[1]モーツァルトのピアノソナタは、高域の残響が曖昧になるためか、緊張感あるソースの雰囲気が若干スポイル。中音域の密度感にはやや大味さも感じ、弦の唸りなどピアノ独特のディティールに物足りなさも。
ソースとの相性:☆☆☆
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Echoes of Time
Lisa Batiashvili
バイオリン曲。[1]ショスタコービッチの協奏曲では、少し霞がかかったような幽玄な空間の表現には至らない。ただし[8]ラフマニノフのヴォカリーズでは、バイオリンが持つ、明晰さと甘さが程よいバランスで、ロマンチック。
ソースとの相性:☆☆☆★
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シャングリ・ラ O.S.T.2
黒石ひとみ
サントラ。楽器の音色表現が巧みな高音質盤。[6]低めのブラス楽器のやや翳った響き、[7]ポコポコした打楽器のアタック感がともにリアル。[14]最後に連続する和音に残る、わずかな不協音にハッとする。[16]のボーカルも官能的。
ソースとの相性:☆☆☆☆
試聴した応接室は短辺が3.5m、長辺が6m程度。面積で言うと10畳より少し広いサイズ(約21m2)。フィリップス本社のデモ環境よりかなり狭いが、一般的なユーザーの場合、このぐらいの大きさが限度というケースが多いのではないか。聴取位置は2.5mほど離れた場所。DS9000は壁から1.5mほど離し、高さ50~60cmのガラス台の上に設置した。
上に述べたように、DS9000は基本的にはタイトで明晰な鳴りが身上。ただし、設置の仕方にある程度気を配る必要があるとも感じた。木製の棚など、下側に広い空洞がある台では余計な響きが乗って、ボンついた曖昧な音になってしまう。理想を言えば、接地面はなるべく小さくし(広い机などでは反射があるため)、かつ鉄や石など固めの足場を用意したい。