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山谷剛史の「中国IT小話」 第95回

中国から学ぶネットリテラシーの上げ方

2011年05月03日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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SNSやミニブログが普及する
中国らしい理由

中国インターネット業界で「騰迅(QQ)」「百度」「アリババ(淘宝網)」3社が占める割合は非常に大きい

中国インターネット業界で「騰迅(QQ)」「百度」「アリババ(淘宝網)」3社が占める割合は非常に大きい

 中国で日本以上にWeb 2.0サービスの利用率が高いのはなぜか。日本では東京や京阪神など一部の大都市に利用者が一極集中するのに対し、中国では全土に100万都市が点在するため、各都市で新サービスを利用しようとする動きが発生し、利用率が高いというのがひとつ。

 もうひとつの理由は、中国でのインターネット業界の枠組みの作られ方だ。日本のそれと異なり、ネットトレンドに敏感でないネット利用者を新サービスに誘導しやすい。それを紹介するために、中国の人気サイトを軸にしたインターネットの歴史を簡単に解説したい。

 今でこそ、中国では四捨五入して5億人のインターネット利用者がいるが、1億人を突破したのは2005年とごく最近だ。2005年以前は「新浪(Sina)」「捜狐(SOHU)」「網易(NetEase)」という3大ポータルサイトが頂点にあった。チャットソフト「QQ」も人気だったが、誰もがチャットソフトとしてQQを利用するだけだった。

QQのミニブログ(微博)。チャットアカウントで利用可能

QQのミニブログ(微博)。チャットアカウントで利用可能

 2005年以降はQQはチャットソフトのアカウントを軸に、ポータルサイトやオンラインゲームやブログ、ミニブログなど、さまざまなタイムリーで新しいウェブサービスをリリースした。

 検索サイトにしても、「Google」は老舗利用者だけとなり、新規利用者はmp3検索や動画検索などの付帯サービスが充実する「百度(Baidu)」に走っている。中国市場で「eBay」のシェアを奪った「淘宝網(TAOBAO)」の台頭により、オンラインショッピングが徐々に人気となった。QQ、百度、淘宝網の3サイトが中国を代表するサイトになった。

 YouTubeモドキやFacebookモドキ、Twitterモドキ、Grouponモドキなど、外国で人気サービスが出ればそれにそっくりなサービスが中国から登場した。しかし、「優酷(YOUKU)」や「土豆(TUDOU)」などの動画サイトなどを除き、多くのサイトは一時的にはシェアトップにはなれど、中国の人気ウェブサービスのメインストリームになりえなかった。

 しばらくした後、前述のQQや百度をはじめとするポータルサイトが、やはり同種の模倣した新サービスを投入したり、本家サイトと提携して中文版サイトを投入したりすることで、一気にシェアトップに躍り出る。

QQによるGroupon中文版

QQによるGroupon中文版

 たとえば、QQは米Grouponと提携したし、百度は米Facebookと提携しようとする動きがある。巨大サイトが新サービスを投入すると、数億人の自サイト利用者にアピールできる上、登録済みのアカウントを利用できるようにするため、一気にそれまで他社が築いたシェアを奪う。

 ちなみに、大手サイトの模倣サービスの投入は米国産サービスにとどまらない。代表的なところでは、中国ベンダー「5minutes」がSNS向け農場ゲームの先駆けとなった「Happy firm(開心農場)」をリリースし、一時的にFacebookにそっくりなデザイン・サービスの「校内網」「開心網」の人気を押し上げたが、QQがQQアカウントを利用する「QQ農場」というゲームを投入したことで多くのユーザーをQQに抱え込む結果となった。

 自サイトユーザーを囲い込んで人気サイトを買収するのでなく、模倣品を投入して押さえ込むというのがなんとも中国らしいが、この結果、SNSもブログもミニブログもネットユーザーの中のヘビーユーザーだけが使いこなすウェブサービスではなくなり、誰もが利用して当たり前のサービスに昇華した。

海外サービスの日本版を待つだけでは
ネットリテラシーは上がらない!?

 こうした中国のインターネット事情を見るに、日本でSNS利用者やミニブログ利用者を増やすには、ライトなネットユーザーを多数抱える「モバゲー」「GREE」や、mixi、Yahooなどが、さまざまな新サービスを提供してネットリテラシーの底上げをするのがひとつの手段であるように思う。

 TwitterやFacebookが海外で登場し、日本語版がリリースされるのを待つスタンスでは、今後も一部のヘビーユーザーしかネットリテラシーが上がることはないだろう。また、Grouponが出たところで、日本のさまざまなサイトがGrouponモドキを出しても、競争こそあれ多数アカウントを抱えるサイトが出てこない限り、利用する人数も限られる。

 中国からも学ぶこと・参照することはある。国民全体のネットリテラシーの上げ方を日本のポータルサイトも学ぶべきではなかろうか。

 最後に本題からは外れるが、中国においてこれだけ利用者が多いと比例してデマの数も気になりそうなところだが、デマに対しては各サイトの管理員がすぐに削除する対処をとる。

 多数のデマ流布したのに対して警察庁が注意喚起し、デマの対策を強化した日本とは規制の度合いが大きく異なる。この辺は「中国が主張する「言論の自由」とは」「ネット世論の誘導という商売」といった過去記事を参照されたし。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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