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災害や電力不足に負けないIT活用のヒント 第1回

在宅勤務で本当に役立ったビジュアルコミュニケーション

ポリコム自身が再認識した災害時のビデオ会議の価値

2011年05月16日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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多種多様なビデオ会議製品を扱うポリコムジャパンの東京本社も、3・11の大震災に見舞われた。それ以降に行なった社員全員での在宅勤務で、災害時の自社製品の価値を再認識したという。ポリコムジャパンの奥田智巳氏に話を聞いた。

社員全員の在宅勤務に挑んだポリコムジャパン

 3・11の大震災以降、外資系企業の多くは一気に在宅勤務に切り替えた。ビデオ会議システムの開発・販売を行なっているポリコムジャパンもこうした企業の1つである。

ポリコムジャパン アジアパシフィック チャネル販売部ディレクター 奥田智巳氏

 3・11の午後、千代田区紀尾井町にあるポリコムのオフィスも激しい揺れに見舞われた。交通機関がまひし、ケータイなどは一切つながらない状態だったが、インターネット経由でのビデオ会議は問題なく使えたという。ポリコムの奥田氏は、「ビデオ会議が使えたので、シンガポールの上司と連絡がつきました。社員全員が帰宅するという承認も、すぐにとれました」と災害時のビデオ会議の有効性について語る。ここらへんはTwitterやニコニコ動画、Skypeなどのインターネットアプリケーションが災害時のコミュニケーション手段として、再評価されたのと同じ事情だ。

 そして震災の翌週以降、余震の多発、原発の制御不能、交通機関のまひなどの事態が次々起こった。こうしたなか、社員の安全を確保しつつ、ビジネスを継続するため、同社はリスクレベルが下がるまで社員全員が在宅勤務に移ることに決めた。奥田氏は、「緊急時の体制はあまり細かく決まってなかったのですが、ビデオ会議製品のメーカーということで、在宅勤務やビデオ会議の利用自体には慣れていました。とはいえ、全員在宅勤務で社内に人がいないのに、ビジネスができるのか不安でした」と語る。

在宅勤務の不安をどのように解消したか?

 しかし、実際は問題なく業務を遂行できたという。もとより同社では全員がIP電話や自社製のビデオ会議アプリケーション「Polycom CMA Desktop」を搭載したノートPCで業務を行なっており、外線電話もIP電話で着信できるようになっていた。また、マイクロソフトのOffice Communicatorなどを活用することで、各人のステータスを共有したり、チャットから複数人で会議を行なうといったことも可能だ。これにより、在宅勤務においても「お客様や販売パートナーに対して支障を起こすことなく、苦情もなく、ビジネスを継続できました」(奥田氏)という。

 奥田氏が強調したのは、こうした災害時に顔を見てコミュニケーションをとることの重要性である。「TVをつけると、火災とか、原発の暴発とか、ネガティブなニュースが次々と流れています。精神的な不安を抱えながら、お客様やパートナーのビジネスを支えるという責任を全うしなければなりません。こうしたなか、お互いが顔を見ながら、話をすることで不安がずいぶん解消されたというのが実感です」(奥田氏)。もともと在宅勤務は、コミュニティからの疎外感や孤立感という課題があるが、ビデオ会議のようなビジュアルコミュニケーションはこうした不安を埋める効果があるわけだ。

女性社員が在宅勤務の模様を手元のデジカメでおさめた一枚。小型のスピーカーフォンをPCにつなげ、高品質な音声のやりとりが可能だという

 そして3月下旬。震災が起こってから約10日が過ぎ、交通機関は正常化しつつあったものの、原発の問題が深刻化したことで、東京から避難する人たちも現れた。これに対し、ポリコムジャパンでは、西日本や首都圏以外の実家に帰って勤務することも許可した。「約10名弱が一時東京から離れて、仕事することになりました。でも1週間在宅勤務をやってみたら、うまく行ったので、あまり不安はありませんでした」(奥田氏)とのこと。3週間目以降は、少しずつオフィスに戻り、現在は通常の業務に戻っているという。奥田氏は「在宅勤務で災害を乗り切ったことで、企業としての強靱さが1つ上のレベルに上がったと感じました」と話す。

 今回、在宅勤務が問題なく進んだ理由として、奥田氏は前述したように在宅勤務自体に抵抗感がなかったことや、就業規則上でも在宅勤務がきちんと認められたという点を挙げた。しかし、それより大きかったのはパートナーの理解だという。奥田氏は「在宅勤務について取引先やパートナーの理解があったのは、やはりありがたいと思いました。通常の会社は、この障壁が一番高いと思います」と語る。確かに「社員が会社に来ていない」という事実を不誠実と感じる会社もまだまだ多いかもしれない。だが震災以降、計画停電に備え、数万人規模での在宅勤務を計画している大手企業も現れており、日本の会社は確実に変わっていくと思われる。

 一方で、在宅ではできない業務もいくつかあったという。「弊社の仕事の8割は在宅でできるのですが、お客様へのデモンストレーションとか、ラボでの検証の一部は在宅では難しかったです」と語る。在宅勤務の体制強化を計画している会社は多いはずだが、そもそもどれだけの業務が在宅でできるのか事前にきちんと見極めるのが重要だと考えられる。

ビデオ会議製品は災害対策に有効

 もとより、ポリコムが扱っているビデオ会議のような製品は、災害や犯罪で引き合いが増える商品ではあるという。9・11のテロやサーズのパンデミック騒動と同様に、今回の震災以降もBCPという観点で製品の問い合わせが増えているとのこと。とはいえ、今までビデオ会議は生産性の向上や出張コストの抑制という観点を訴求していたため、災害対策という切り口はあまりなかったという。

 しかし、「ローソンさんや出光さんのように災害時の陣頭指揮でビデオ会議を積極的に使っている場面が報道されていることもあり、災害対策のツールとして認知されてきたようです」(奥田氏)とのこと。ポリコムジャパンとしても、在宅勤務の運用ルールなどをひな形として提供していきたいと考えている。

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