FB-DIMMはなぜ普及しなかったのか?
いいこと尽くめに見えるFB-DIMMだが、実際にはこれから書くことが全部ネガティブな方向に作用してしまい、普及を妨げることになる。
まず最初に問題になったのが、AMBそのもののコストだ。AMB自身はインテルのほか、NECエレクトロニクス(現ルネサスエレクトロニクス)、米IDT、米Inphiなどのベンダーが提供していた。しかし、当初はインテルより先にサンプルを出していたテキサス・インスツルメンツ(TI)は、途中でAMBの提供を中止してしまった。理由はいろいろ取り沙汰されたが、最終的にはコストとマーケットの問題に帰着すると思われる。
FB-DIMMを普及させるためにも、AMBの価格を高くするわけにはいかない。だが、あまり安いとメーカーの旨みがなくなる。もちろんAMBが(当初インテルが考えていたほどに)広く使われるようになれば、量産効果も期待できた。しかしそれもさまざまな問題が出てくるに従って、市場規模そのものがあまり期待できなくなる。そうなるとTIが手を引くのも無理のないところだ。結果的にAMBのコストも相まって、FB-DIMMはRegistered DIMMと同じく、「サーバーマーケット限定」のメモリーモジュールとなってしまった。
次に問題になったのがAMBの発熱である。AMBそのものは比較的単純なバッファだったが、動作そのものは信号速度と同じく3.2GHz(DDR2-533の場合)や4GHz(同DDR2-677)で駆動されるから、その発熱が馬鹿にならない。
一応は「ヒートシンクを装着して対処」したものの、最終形に行き着くまでの3年近くで、さまざまなヒートシンクが登場することになった。それでも当初は発熱が多すぎて、連続利用するとメモリーの動作が不安定になるとか、特にラックに収めた場合のシステム全体の発熱が問題となっていた。
しかし2007年あたりからは、FB-DIMMの採用はシステムの消費電力を引き上げることになるとして、発熱から電力的な問題に切り替わっていった。
最後に性能の問題もあった。FB-DIMMでは確かに容量の問題は解決するのだが、その代わりに性能、特にメモリーアクセスの遅延が非常に大きいという問題が出てきた。考えてみれば当然の話で、AMBを経由する時点でそれなりに遅延が増えることは避けられない。特にFB-DIMMを8枚も装着すると、メモリーリクエストを出した場合に、最悪の場合は以下の順序でコマンドがやり取りされる。
- 下り:コントローラー→AMB #1→AMB #2→……AMB #8→DRAM
- 上り:DRAM→AMB #8→AMB #7→……AMB #1→コントローラー
つまり、行き帰りで合計14回も余分なAMBを経由することになる。AMBを1回経由する遅延を1サイクル分(実際はもう少し大きい)としても、トータルで14サイクルも遅延が増える計算だ。これによる性能低下は避けようがない。
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