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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第99回

多くの利点を持つFB-DIMM 熱と訴訟と競合に消える

2011年05月02日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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解決策とコストのバランスが難しい
DRAMの信号減衰・ノイズ問題

 また信号速度が高くなると、これまでDRAMで使われてきた「シングルエンデッド伝送」(信号線1本で信号を伝送する方式)は、ノイズなどの影響を受けやすくなるというデメリットもある。例えば図3のケースだ。

図3 シングルエンデッドの信号波形がノイズで受ける影響

 元々の信号にノイズが乗ることで、合計波形(図3右の青線)は、かなり複雑な様相を呈する。高レベルはともかく、低レベルがノイズの影響でかなり上がってしまうのが問題である。昔は信号波形の高低の電位差が大きかったから、多少のノイズには影響されなかった。しかし、高速化のために電圧レベルを落としたことで、相対的に信号はノイズの影響を受けやすくなってしまっている。

 これに対する対策として、「ディファレンシャル伝送」(信号線2本で伝送する方式)が、すでに広く使われている。これは図4のように、2つの信号線の差として信号を送りだす技術だ。

図4 ディファレンシャル伝送の信号波形

 ディファレンシャル伝送なら、2本の信号線それぞれにノイズが乗っても、受信側が信号の引き算をすれば簡単にノイズの影響を消せる。また、信号の電圧自体をシングルエンデッドより下げやすいというメリットもあるため、より高速化に適している。問題なのは、一般的なDRAMチップはディファレンシャル伝送に対応していないことだ。

 理由は明快で、信号線の数が2倍に増えてしまうからだ。これによりDRAMのパッケージが大型化するし、配線も手間になるからコストが上昇する。さらにDRAM自身も(イコライザーほどではないが)複雑化することで、さらにコスト上昇要因となる。FB-DIMMはこれらをすべてまとめて解決するアイデアである。

信号問題を解決するFB-DIMMの仕組み

FB-DIMMの例。2006年に販売されていた製品と展示サンプル

AMBの例

 FB-DIMMの基本的な構造を図5に示す。すべてのFB-DIMMには、「AMB」(Advanced Memory Buffer)というバッファが搭載されており、DIMM上のメモリーチップはこのAMBに接続される。メモリーコントローラーはこのAMBと接続され、メモリーバスは下り10bit幅、上り14bit幅のディファレンシャル伝送で構成されている。またAMB同士はディジーチェーンにより、最大8つまで接続される。

図5 FB-DIMMの構造

 FB-DIMMではこれまでに述べた問題が、ほとんど解決されている。まず信号の高速化だが、メモリーコントローラーはAMBとだけ接続するので、シングルエンデッド伝送にこだわらずディファレンシャル伝送を利用できる。信号線の本数が増える問題は、信号の速度を上げるという形で解決した。FB-DIMMの場合、メモリーコントローラーとAMB、あるいはAMB同士は6倍速で動作する。

 例えばDDR2-533のメモリーチップを使う場合、信号の速度は533×6=3.2GHz駆動になる。そのため、下りは3.2GHz×10bit=4GB/秒、上りは3.2GHz×14bit=5.6GB/秒という帯域が確保される。DDR2-533 DIMMの元々の帯域は4.3GB/秒だから、十分これを超える帯域が確保されている。しかも、信号線の本数は全部で69本(上り下り以外にクロックも必要なため)と、従来のUnbuffered DIMM/Registered DIMMを使った場合よりもだいぶ少なくなっている。

 また、AMB同士で信号を中継するので、いくらDIMMの枚数を増やしても信号が劣化したりすることもない。そのため、1チャンネルあたりのDIMM枚数を大きく増やすことができ、これによってシステム全体の総メモリー容量を、大幅に引き上げることが可能になった。

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