モバイル向け新製品には技術のすべてを投入していない
今回、カスペルスキー氏が来日したのは、Android向けのモバイルセキュリティ製品、そしてMac用セキュリティ製品、SaaS型エンドポイントセキュリティ管理サーバーなど法人向けの製品などを紹介するためだ。
まずは、モバイルセキュリティ製品について聞いた。この分野は、スマートフォンの急激な市場拡大とともに、注目を集めている分野だ。PC向けとモバイル端末向けでどこが異なっているのだろうか? カスペルスキー氏は「やはりPCのほうが攻撃が複雑なので、それに見合った機能が重要になる。一方で、モバイル端末は小さくて、便利だが、なくしやすい。あとCPUが低速で、メモリも少ないので、すべての技術をモバイル端末向け製品に盛り込んだわけでない」と語る。法人向け製品としては、モバイルデバイス管理ツールも注目を集めているが、「Android、Symbian、Windows Mobileなどを管理するツールは、2008年からすでに展開している」(カスペルスキー氏)と述べている。
モバイルセキュリティ製品の開発に関しては、WindowsもMacもエンジニアはいるが、Androidはプラットフォーム自体が新しいので開発者が少ないという苦労はあったという。しかし、「裏を返せば、技術的にも洗練されていないので、攻撃もまだ稚拙で御しやすい」(カスペルスキー氏)と、PC向けのウイルスと戦ってきた余裕を見せた。
法人向け製品としては、企業内に導入するパッケージやホスティングサービス向け製品も用意されているが、今回提供された「Kaspersky Security Center Service Provider Edition」はいわゆるSIerをターゲットに、日本で先行して投入した。システム自体を外に出して、セキュリティもアウトソーシングするホステッドサービスは海外の方が多いが、今回のKaspersky Security Center Service Provider Editionは「銀行とか生命保険会社とか、情シス子会社が親会社のシステムをメンテナンスするという形態も多いが、こうしたパターンにはまる製品」(カスペルスキー氏)といえる。
いまだから語る成功の秘訣と苦労
さて、カスペルスキー・ラボが1997年に設立され、すでに14年の月日が流れた。特にこの5年で、同社は急成長を遂げており、日本法人会長の加賀山進氏をして、ここまで急速な成長カーブを描く会社は見たことがないと言わしめるほど。とはいえ、創業当初の1990年代は「ロシアのソフトウェア会社に対する投資はまったくなかった。だから私たちは自分たちでお金を稼ぐことをきちんと学んだ」(カスペルスキー氏)という。
その後の成功の秘訣をカスペルスキー氏に聞いてみると「やはり技術に特化したことがよかったと思う。OEMで他社へエンジン提供をし始めてから、ヨーロッパに拡がり、研究開発用の資金が調達できるようになった。ソビエト時代の教育が優れていたこともあり、優秀な理系技術者を大量に雇うことができたのも大きい」いう答えが返ってきた。過去を振り返れば、カスペルスキーはUTMやメールゲートウェイのようなアプライアンス製品に搭載されるエンジンとして認知度を得て、次にコンシューマ向け製品に拡がっていった経緯があった。「ウイルスとの戦いは、本当にサイバー戦争だと思っている。攻撃は激化しているし、本物志向の会社ではないと生き残れない」と、マーケティングカンパニーに対して警鐘を鳴らす。
また、「とにかくアンチウイルスから軸をずらさなかったこと。プライベートカンパニー(非公開企業)という立場を貫いたことで、投資に対して口を挟まれなかったこと」も大きかったという。確かに大手のセキュリティベンダーは、アンチウイルスからスタートし、さまざまなセキュリティ製品に手を広げているが、カスペルスキーはアンチウイルスを中心に製品を展開している。次の製品は「DDoS攻撃の防御ソフトを手掛けている」ということで、技術的にも気になるところだ。
ちなみに今回の来日のもう1つの目的は、大震災への支援を表明すること。20回以上訪日していることもあり、日本に対する思い入れは並々ならぬものだ。放射能を測定するガイガーカウンター5000台という実のある寄付だけではなく、放射能の影響が懸念されるなか、あえて東京に乗り込んで発表会を開催した同氏の心意気に感謝したいところだ。