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編集者の眼第29回

ユニクロのネットショップ世界展開が失敗する原因

2011年04月20日 10時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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 アパレルのネットショップには各ブランドの考え方が反映されている。たとえばLOUIS VUITTON」は11言語のネットショップをwww.louisvuitton.com以下で展開しており、どの言語でもほぼ共通のコンテンツを世界中から利用できるが日本語を選べば日本にしか送れず、「最近はユーロが安いからフランス語サイトでユーロ決済して日本に送ってもらおう」のような使い方はできない。「Ralph Lauren」もLOUIS VUITTONと同様に、日本からアメリカのサイトにアクセスできるが、購入はできない。

 「Abercrombie & Fitch」のネットショップは、おそらくIPアドレスからユーザーのアクセス元を判定しており、日本からwww.abercrombie.comにアクセスしてもjp.abercrombie.comにリダイレクトされてしまい、アメリカでのラインナップや価格は調べようがない。一方、セレブにも愛用者の多い「Banana Republic」はアメリカのサイトで購入しても、日本に発送してくれる。バナリパ好きなら本国仕様の豊富な品揃えに魅力を感じるはずだ。

 世界のアパレルブランドのWebサイトに共通しているのは、店舗の雰囲気や商品を手に取ったときの肌触りのような、ネットの弱点とされることを克服しようとしていることだ。たとえばLOUIS VUITTONは静寂な店内と行き届いた接客をシンプルなデザインで表現している。Flashを駆使して、画面の切り換え時にモノグラムを表示するなど、LOUIS VUITTONでしかできない演出を心がけており、画像の拡大機能を使えば、丈夫な革の凹凸感まで伝わってくる。

LOUIS VUITTONのECサイト。ズーム機能により商品の質感まで確認できる

 Abercrombie & Fitchは、暗がりの中で洋服を選ばせる実店舗の演出を再現していて、ダークグレーの背景に、極端なライティングで撮影した商品画像を並べている。画像を拡大できるとはいえ、実店舗同様、色合いは確認しづらい。これで大音量のBGMと、イケメン、イケガール店員が踊り出すような接客まで再現してくれればカンペキである。

Abercrombie & Fitch。商品の色合いは確認しづらいが、店舗の雰囲気を演出している

 では、日本が誇る国際ブランド「ユニクロ」はどうだろうか。www.uniqlo.com以下で展開されているネットショップは、各国語サイトを共通のCMSで運用しているようだ。しかし、世界のブランドサイトと比べるとずいぶん見劣りする。たとえば、商品の肌触りを感じられるほどには画像を拡大できないし、色違いの画像が「COMING SOON」になっていることもある。洋服好きなら気になるボタンの素材やファスナーのデザインは、どう調べてもわからない。

ユニクロのECサイト(英国版)。ECサイトとしての基本的な機能は揃っているが、高精細な画像表示機能などはない

 「ユニクロはそういう層を相手にしていない」のかもしれないが、アメリカの大手カジュアルブランドAmerican Eagle Outfitters」(日本未進出)のWebサイトを利用すれば、ユニクロとの差が判然とするだろう。www.ae.comでは、商品画像をマウスオーバーするだけで拡大表示されるし、ショッピングカートに商品を追加すれば、サムネイル画像で現在の中身が表示される。手に取ってシルエットや細かな縫製などを確認し、気に入った商品を買い物かごに入れる一連の動作を、見事にWebで再現しているのだ。

American Eagle OutfittersのECサイト。カジュアルブランドのサイトだが、機能面では高級ブランドに劣らない

 特に日本のアパレル系ネットショップは世界水準から見るとコンセプトが古く、ZOZOTOWNのようにガラパゴス的進化を遂げたサイトすらある。英語サイトを作るなら、グローバル品質を飛び越えていなければ意味がない。ユニクロがネットショップの世界展開に失敗するとしたら、買い物の楽しさを再現できない問題に気付けないことが原因になるだろう。

 ユニクロのように、積極的に世界に進出するグローバル企業が注目されるが、ひとまずネットショップを各国語で作成し、コンバージョンを確認してから実際に現地に進出する方法を「Webセントリック・グローバリゼーション」と言うことを、Web制作コンサルティング会社であるロフトワークの諏訪光洋社長に教えてもらった。

 たとえば化学記号が検索キーワードになる試薬メーカーの場合、英語のサイトを用意するだけで英語圏からの流入があり、英語での問い合わせ数が増え、その後アメリカに進出した事例があるという。「Webセントリックといっても、日本水準なのか世界水準なのかでお客さまに提供するWebサイトの品質が変わってしまうのは問題では?」という私の疑問には、「企業のWebサイトではPDCAを回すのが基本。たとえ日本発のグローバルサイトの水準が低くても、PDCAを回すうちに気付き、世界に追いつく」という。ユニクロ新宿高島屋店のMayorは私だ。巧みな商品ディスプレイでついつい足を運びたくなるリアル店舗の楽しさは、Webでも再現できるはずだ。

海外マーケット進出/強化のためのグローバルサイト戦略セミナー

日時
2011年05月17日(火) 14:00~17:00 (13:30開場・受付開始)
主催
株式会社ロフトワーク 日本オラクル株式会社
会場
日本オラクル 13Fセミナールーム(外苑前)
定員
80名
参加費
無料
対象
  • 企業のマーケティング・広報担当者・マネージャー
  • 経営企画担当者


※詳細・申込みは、ロフトワークのセミナー案内ページから。

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