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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第52回

「これでやっていける」 配信音楽、一年目の手ごたえ

2011年04月09日 12時00分更新

文● 四本淑三

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ネット使い、CMソングやコラボも

―― じゃあ本題に。前のアルバムから1年ちょっと経ちますが。

まつき 去年「一億年レコード」を出したときに、わーっと人が来たんです。でも半年、1年と経ってだんだんそういう人は減ってくる。それが普通のことだと思うんですが、「2010年デジタル革命」みたいなことで取り上げておいて、あとは電子書籍だ、Facebookだと、わーっと流れていくわけですよね。

―― 腹立ちません?

まつき 腹は立ちませんけど。でも形骸化しているなとは思いますね。一年経ってメディアをそういう冷めた目で見ています。ただ、本質的なところが分かっていないなら、俺のやっている意義も増すかなと思いますけどね。

―― 去年はツアー「旅行」で行く先々にUstreamでつないでいましたよね。元BAD STUFF、現AUXの森島映さんと「僕らは電気の原始人」を歌っているところを観ました。

まつき あれは会いたい人に会いに行くというのが目的だったんですが、もちろん森島さんもその一人で。今の状況を考えても、あの曲はタフな表現だと思います。ここから先にああいう表現をする人が出てきてほしいし、自分もそうありたい。他にも去年はコーナーショップと演ったり、CMをやったりとかですね、色々やっていましたよ。

4月3日、配信サイトnau主催の「Rock Festival nau!」が新代田FEVERで開催。まつきあゆむはDJとして参加予定だったが、急遽他の出演者からギターを借りて、BAD STUFFの「僕らは電気の原始人」を歌った

このイベントにはキャプテンミライも出演し、弾き語りを披露。さすが「いつも気がつけばそこにいる男」である

コーナーショーップ : イギリスのグループ。まつき君がTwitterに彼らの新譜について書いたところ、メンバーからリプライがあり、そこから交流が始まったのがきっかけで、コラボレーションシングルが生まれた。

―― へえーっ、どんなCMをやっているんですか? うちはテレビがないもので。

まつき マクドナルドとか。今流れているのだとコッコアポとか、パナソニックとか。CM制作会社の人に僕の曲が好きな人がいてくれて、それでですね。

CMソング : 「新コッコアポA錠」のCMでは、まつき君が音楽とナレーションを担当。Panasonicのデジタルビデオカメラ「TM45」のCMでは森高千里をボーカルに作曲を担当した。

―― それは素晴らしい。もう、これでやっていけそう?

まつき はい。基本的にはそういうことも自分の作品をWebで自分で売るというものを柱にしてやっているので。ただ20年、30年先の長いスパンでどうなるかは分からないけど、少なくとも今年はやっていけると思います。

―― ニコニコ動画関係でも最近は音楽一本で食えているという人は増えてますね。でもミュージシャン一般で言えば、食えていない人のほうが圧倒的に多い。

まつき でしょうね。リキッドルームをワンマンで一杯にするような人でも、翌日はバイトしていたりしますからね。それも悪いこととは思いませんが。

―― でも、まつき君みたいなやり方で成功している例は他にまだいないですね。

まつき 聞かないですね。ただ自分で配信すればいいということではないと思うので。

―― 世間はビジネスモデルとして見たがるわけですが。パンクを例にすれば、髪を立てて、安全ピンでも刺すだけで、パンクの精神を持てるわけでもない。

まつき そこが形骸化しているなあと思うところで。僕がやっているようなことは、ひとつの列車のように見えるんでしょうね。これに乗っておけば次の時代に乗り遅れないという。実は一つ一つの状況判断が大切だと言っても、それは僕にしか分からないことで、ノウハウとして一般化できるようなものではないし。正解もないし。

―― ただ、時代にハマる表現や手法というのはいつの時代にもあるわけです。そもそもネットで活動するというのは、どういうことなのかという話ですけど。

まつき バランスだと思うんです。たとえば、RPG攻略本でよくある五角形のチャートがあるじゃないですか。歌唱力の高い人や、作曲能力の高い人、WebやTwitterに強い人がいたり。必要なのは、その五角形を全部MAXにする努力じゃなくて、自分の五角形がどんな形なのかを把握することだと思うんです。他ができなかったとしても、曲だけは山のように書きまくるとか。

 僕はそれをやったんです。まだ続いている「新曲の嵐」というシリーズで、Webで1週間に1曲。特に最初は誰も振り向かなかったんですが、「まつきあゆむは曲を書くスピードは速い」という話が伝わっていく。それが良いイメージかどうか分からないけど、自分の特徴にはなる。だから僕は自分にできないことは自分で分かっておこうと心がけています。

(次のページに続く)

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