自ら作った曲を、自らインターネットで売り、自ら著作権も管理する。そうした方法でネットを中心に活動する宅録音楽家・まつきあゆむ。われわれが取材したのはちょうど一年前。彼はあれからどういう音楽生活を送ってきたのだろう?
彼は、2010年1月1日に最初の自主配信アルバム「1億年レコード」をリリース。TwitterやUstreamを使った公開録音などで、一躍時の人となった。その一年後、2010年大晦日に「あなたの人生の物語」をリリースしている。どちらもネットで購入手続きを取ると、本人がメールでダウンロード用のURLとパスワードを送ってくるという、実にプリミティブな販売方法が採られている。それは今でも変わらない。
彼の試みは成功したのだろうか? 成功したとすれば、次はどこに踏み出そうとしているのか。前回同様、ご自宅にお邪魔しての取材となった。前回と違うのは、彼の自宅が引っ越したこと。そして3.11以降であることだ。
バイトをせずに音楽ができる
―― さて、何から話しましょうか。
まつき そうですよねえ。僕もすごく答えづらいです。
―― どうでもいいけど、前の部屋とレイアウトが同じですね。
まつき でも、少し広くなったじゃないですか。それにここね、隣に人がいないんです。
―― じゃあ前みたいに録音している最中に怒鳴り込まれたりしない?
まつき それで時々ブルーになったりして。それが解消されただけでも、僕にとっては重要なんですよ。それはプロの音楽家がレコーディングスタジオのあるところに越したのと同じことですから。ってプロの音楽家って俺もそうなんだけど。
―― ははは。じゃあもう音楽で食えてる?
まつき はい。2009年までの僕の生活だったら、引越ししようと思ったら、音楽をやらずに必死にバイトしなければならなかったんですが、今は自分のためにも仕事のためにもなるから越そう、とすぐ決断できる。それに引越し一段落したから、温泉にでも行くかみたいなこともできたし。あ、でも、そんなに稼いではいませんが。ここは強調しておいてほしいんですけど……おっと、揺れてますね。
(取材中に余震が来る。カタカタと音を立てて机などが揺れる)
―― これはデカいかも。(iPhoneを見ながら)震源は茨城県南部。近いですね。
まつき 大丈夫かな。僕、実家が取手なので。もう収まってきたかな?
―― やっぱり地震の話はせざるを得ないですね。
(次のページに続く)

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