オンラインゲームを長時間楽しむためのVPN
では、中国人にとってVPNとはどういう立ち位置の技術なのだろうか。
中国から普通にダウンロードできる「517vpn」というVPNソフトは、無料版だと数分だけ利用でき、有料版だと長時間利用できる。ダウンロードすると世界各国の利用できるVPNサーバーがリストアップされるが、これを見ると香港や日本や欧州よりも、韓国・台湾・アメリカにサーバーが多数あることが確認できる。
韓国と台湾とアメリカ。インターネット絡みでこの3つの地域に共通することは?
答えは「オンラインゲーム」である。中国ではオンラインゲームをやり過ぎるとペナルティが発生するなど、中国独自の事情があり、それを嫌がってVPNを利用して他国のゲームサーバーで遊ぶ人もいる。
逆に、中国のオンラインゲームで遊ぶべく、在外中国人がVPNを利用するケースもある。そもそも中国のインターネット業界は、日本のそれと異なり、利用者は娯楽ありきで成長してきた。そうしたネット事情を考慮すれば、遊ぶために有料版VPNを利用する人が多く、「数分で遮断する無料版」が存在できるわけだ。
もちろん数は少ないだろうが、中国では見えないサイトを見るためにVPNを利用する中国人もいるにはいる。百度中国で「VPN」をキーワードに検索すると、VPNの紹介やVPN経由でのオンラインゲームについてのページが表示されるが、中国政府を指す隠語「天朝」と組み合わせた「天朝 VPN」や、壁越えを意味する「翻墻」と組み合わせた「翻墻 VPN」という検索ワードで検索すると状況は一変。壁越えのための情報ばかりが表示される。
その数については、当連載の過去記事「中国Twitterユーザーが気になる母国の話題」を参照していただければと思うが、参考までに百度による検索結果の数量は、「VPN」が2520万件、「公司 VPN」が294万件、「網絡遊戯 VPN」が213万件、「翻墻 VPN」が28万件、「天朝 VPN」が11万件となっている。
前述したように、VPNソフトの接続先には中国国内のサーバーもある。つまり、中国からVPNを通し、日本など他国のサーバーを介してインターネットにアクセスできるのと同様に、日本を含めた世界中からVPNを通して、“中国のインターネット”にアクセスすることができる。
中国のインターネットを記事を通してしか知らない好奇心豊かな読者の方や、中国支社のインターネット事情を知りたい企業担当者は、一度VPNを通して中国の国情にあったネット環境を体験してみてはいかがだろうか。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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