危機管理のへたな「平和ボケ」の政府
記者会見も奇妙だった。12日の15時36分に1号機の原子炉建屋で水素爆発が起こった後も、東電は「タービン建屋付近で爆発のような事象が発生した」という発表を繰り返し、官房長官が「爆発したのは原子炉建屋だ」と認めたのは5時間後の20時41分だった。このとき負傷した4人の作業員が収容され、テレビカメラでも爆発が見えたのだから、どの建屋で爆発が起こったかわからないということはありえない。おそらく「原子炉が爆発した」と誤解されることを恐れて、ごまかしていたのだろう。
結果的には原子炉に損傷がなかったからいいが、これが原子炉の爆発だったら、5時間の遅れは致命的である。現場の作業員はおろか、退避している住民にも「死の灰」が降り注いで大惨事になっただろう。政府は「東電からの連絡が遅かった」と弁明しているが、テレビ中継より情報の遅い政府とは、何のためにあるのか。
その後の放射能レベルや野菜の出荷制限についての発表も時間を追って悪化し、住民の不安をあおっている。「安全だ」といいながら退避区域を広げ、「健康に問題はない」といいながら出荷制限する政府の一貫性のない情報が、福島/宮城/茨城のすべての農畜産物の買い控えを誘発している。スポーツ新聞や夕刊紙はおろか、AERAまで「放射能がくる」という特集を組んで批判を浴びた。
この際限ないパニックの拡大を止めるには、政府がしっかり危機管理を行なって整合性のある情報を出すしかない。災害対策本部が6つもあり、官房長官と原子力安全・保安院と東電がバラバラに発表する情報が食い違うことが不信感を呼ぶ。そもそも内閣の調整役である官房長官が記者会見に24時間はりついている状態で、危機管理ができるのか。専門の内閣報道官が情報を一元化しないと、緊急事態には対応できない。
このような危機管理体制のお粗末さは阪神大震災でも指摘されたのに、また同じように迷走する政府の対応には、あきれるほかない。これは戦後60年以上、戦争を経験しなかったためかもしれないが、そろそろ「平和ボケ」を卒業し、生命/財産を守るというもっとも重要な役割を果たせる政府になってほしいものだ。
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