前編に引き続き、シャープが3月に発売した液晶テレビ「AQUOS Z5」シリーズの魅力をお伝えしていこう。後編では、アニメ評論家の氷川竜介氏にも登場していただき、様々なコンテンツを視聴。AQUOS Z5(評価機は52V型)の画質をチェックした。さらに国内アニメの最新事情についても語ってもらった。
アバターには日本のアニメ業界も衝撃を受けた
── 氷川さんには、初代クアトロン『AQUOS LX3』で四原色技術がアニメ視聴にも有効に働くことを体験していただきました(関連記事)。BDコンテンツはアニメが牽引している面があると思うのですが、アニメコンテンツ、特に3D立体視についての現状を教えてください。
氷川 CDを含めたパッケージビジネス自体がものすごく地盤沈下する中、アニメは相対的にがんばっているほうだと思います。少なくとも、買うべき人は買っている。
ただ、ここ2、3年の傾向として、売れるものと売れないものの差が大きくなってきたのは確かです。春・夏・秋・冬、それぞれのクール(3ヵ月)で、1~2作品のみが目立って、あとは「その他大勢」としてスルーされてしまう。もう少し多様性があってもいいと思いますね。3着以下でも良い作品はあるのに、トップしか売れないというのは残念なことです。
一方、総量が減ることで、適材適所に作り手が配置されるようになり、作品1本ごとのクオリティーは上がっていると思います。ところがネットなどでは「売れてるものにしか価値がない」という見方が増えている気がします。
本来アニメは「面白いから見る」はずのもので、その価値観の個人差の総体によって多様な作品が次々と生まれてほしいのですが。
── 日本のアニメ業界は3Dをどう捉えていますか?
氷川 『アバター』の衝撃は決定的なものでした。世の中に3Dブームを呼んだということもありますが、この作品の作り方が、日本アニメ文化が長らく得意としてきた手法だったというのが衝撃の本質でした。つまり「世界観で見せる」という手法です。キャラクターが世界観と連動し、一緒に動くことによって映画の中でしか得られないひとつの物語体験が完成する。
日本では宮崎駿さんが卓越した画面構成能力で世界観を作り上げ、映画の中に引き込むような演出方法を提示してから、一気にそちらへ傾きました。実際『風の谷のナウシカ』でも『AKIRA』でも劇場版『機動警察パトレイバー』でもいいんですが、日本のアニメ映画で名作と言われている作品の大半は、この世界観重視の考え方でできているはずです。
それに比べてアメリカのアニメ映画は、例えば『トイストーリー』などで顕著ですが、もう少し舞台劇的というか、あるシチュエーションをバックにキャラが歌って踊ってアクションする様式が多かったと思います。物語とはキャラクターの行動の連鎖である、という考え方です。それが近年『ウォーリー』などピクサーのCGアニメを中心に世界観をじっくり見せる作品が増えてきたところに、実写でもう一段上を見せられてしまった決定打がアバターなんです。
まったくの異世界である惑星ひとつをバーチャルで作り上げてしまう。なおかつその世界観への没入を立体視効果で強化し、同時に物語内容においても「3Dの仮想空間こそ、本来あなたのいるべき世界だ」とシンクロさせて見せる。そのトータルな連動で観客にまったく新しい視覚体験ををさせた映画。それが『アバター』です。
押井守監督を筆頭に日本のアニメ業界が受けた大きな衝撃を見聞きしましたが、それは当然でしょう。単なる技術の問題ではないからです。思想レベルで日本の大事な得意技を奪われ、しかも巨費をかけることで大きく引き離されたのだと思っています。
キャメロンが「アニメ好きだ」という点にもカギがあると思います。宮崎アニメっぽいですねっていう反応が多かったのもむべなるかなです。単純に『風の谷のナウシカ』の“腐海”を真似したということではなく、思想レベルで近似値があるんです。
【性能チェック!】インデックスの額に光る金色も、忠実に表現
── 2Dにもクアトロンということで、テレビアニメの最新作『とある魔術の禁書目録 II』を用意しました。早速AQUOS Z5で見ていきましょう。
氷川 一目で分かるのは、インデックスの額に光っている金色のアクセサリーですね。(今回のAQUOS Z5で見ると)小さいパーツなのにレリーフに影があったり、反射のグラデーションがついてることが分かって感動しました。
インデックスのヘアバンドは金色に見えるようにブラシの特殊効果が入ってるんですよ。レリーフになるように厚みがあるところを色トレスしていて、こんな小さいのに厚みがあるんだなって感心したりして……。
こういうパターンももしかしたら、CGで作成したテクスチャーを貼りつけてあるのかもしれないですね。アニメの画面も細部までどんどん作り込まれているのが分かる。
── 高精細なクアトロンで見ると、こうした制作者の細かなこだわりも、しっかりと視聴者に届くということですね。
氷川 監督の錦織博さんは、制作がデジタルに切り替わった初期から、光の表現に気をつかって、フラットにならない画面作りを心がけている人なので、その演出の特徴も際だって見えますね。
この白いテーブルクロスなら光が多めに反射してますから、周囲にフレアが出てぼやけるだろうとか、背後から光が差し込んでいるシーンなら光が回り込んでいる部分だけ内側にも少しにじんでいるとか。クアトロンだと、そういった演出的な細かい調整のこだわりがよく伝わってきます。
折原 実写でも金色は色味の調整が難しい色です。金色を下手に出そうとすると、全体が赤みがかってしまったりする。RGBだと追い込みにくいんです。その点でもクアトロンの評価は高い。
RGB(赤緑青)にY(黄)を追加することで黄色や金色、そして青の表現力も向上しています(参考URL:クアトロンで広がる新しい映像世界:シャープ公式サイト内)。
氷川 アニメは記号的表現の塊ですから、キャラクターのココをチャームポイントとして見てくださいという箇所もはっきりしてます。インデックスの場合は金色のアクセサリーなので、そこにパッと目が行くことがアニメ的に正しいというか、まずファンとして嬉しいことなんです。
前回チェックした、スピンアウト作品の『とある科学の超電磁砲』でも、初春の花の髪飾りがまずチャームポイントとして目を引いてましたよね。
── チャームポイントですか……。こういったディティール表現の善し悪しだけ見ても、作品への没入感が違っていくということですよね。
氷川 視聴者が瞬時にキャラクターを判別してつかめるよう、制作者が努力をしている箇所ですからね。逆に特別なものだと気付かれてはいけない部分でもあるので、自然な金色に見えたのが良かったです。
