NHKは日本の「コモンズ」としての役割を果たせ
それでもインターネットを恐れる民放は、NTTが光ファイバーで地デジを配信するのを妨害しようと、著作権を理由にして地上波の再送信を拒否しました。これに通信業者が異を唱えると、文部科学省に圧力をかけて著作権法を改正させ、地上波の再送信を「当該放送区域内」に制限しました。
これを根拠に、放送局は県域を越えてインターネットで再送信を行なう業者を摘発し、それに従わない業者に対しては訴訟を起こしました。まねきTVのような利用者が数十人のサービスを最高裁まで訴える「いじめ訴訟」の代表にNHK法務部の弁護士がなっているのは、恥ずかしくありませんか?
松本さんは、過激派に食い物にされたJR東海の労使関係を正常化した「強者」だと聞いています。一時は、JRの経営者は命がけの仕事でしたよね。そういうあなたから見ると、このように地方民放の私的な既得権を守るために公共放送の名前を利用することは、筋の通らないことではないでしょうか。
世界的にみても、IPマルチキャストを「通信」として禁止している国は日本しかありません。欧米ではIP放送は放送であり、有線放送と同じく再送信は自由です。「IP放送は放送ではない」という日本の著作権法を説明しても、海外では理解してもらえません。
電波利権をむさぼってきた民放が滅亡するのは自業自得ですが、彼らのロビー活動によって日本のIP放送が妨害され、さらにクラウド型サービスも違法とされかねないことは、日本のIT産業全体の問題です。このようにおかしな経営方針が取られてきたのは、海老沢勝二元会長の長期政権のもとでビジネスも技術も知らない御殿女中が、ひたすら民放連との協調関係を重視してきたためです。
あなたは受信料の1割値下げを検討しておられるとのことですが、そんなことは誰も望んでいません。それよりBBCがやったように、アーカイブを著作権フリーで公開し、国民の共有する「コモンズ」としてネット配信も自由にしてはどうでしょうか。公共放送に私的な著作権は必要ないので、これはNHKにしかできないコンテンツ産業の振興策です。
率直にいって、NHKの職員は民放よりはるかに優秀です。理事の半数も私は知っていますが、みんな知性のある人々です。経営陣さえしっかりすれば、NHKが今後どういう道を取るべきかは明らかだと思います。BBCのトンプソン会長は、NHKの理事会で「BBCはもはや放送局ではない」と言ったそうです。そういう認識を世界と共有し、自己改革に努めれば、NHKがコンテンツ分野でアジアのリーダーになることも不可能ではないでしょう。
敬具
この連載の記事
-
最終回
トピックス
日本のITはなぜ終わったのか -
第144回
トピックス
電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ -
第143回
トピックス
グーグルを動かしたスマートフォンの「特許バブル」 -
第142回
トピックス
アナログ放送終了はテレビの終わりの始まり -
第141回
トピックス
ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ -
第140回
トピックス
ビル・ゲイツのねらう原子力のイノベーション -
第139回
トピックス
電力産業は「第二のブロードバンド」になるか -
第138回
トピックス
原発事故で迷走する政府の情報管理 -
第137回
トピックス
大震災でわかった旧メディアと新メディアの使い道 -
第135回
トピックス
新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む - この連載の一覧へ