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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第136回

拝啓 NHK会長様

2011年03月02日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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NHKは日本の「コモンズ」としての役割を果たせ

 それでもインターネットを恐れる民放は、NTTが光ファイバーで地デジを配信するのを妨害しようと、著作権を理由にして地上波の再送信を拒否しました。これに通信業者が異を唱えると、文部科学省に圧力をかけて著作権法を改正させ、地上波の再送信を「当該放送区域内」に制限しました。

 これを根拠に、放送局は県域を越えてインターネットで再送信を行なう業者を摘発し、それに従わない業者に対しては訴訟を起こしました。まねきTVのような利用者が数十人のサービスを最高裁まで訴える「いじめ訴訟」の代表にNHK法務部の弁護士がなっているのは、恥ずかしくありませんか?

 松本さんは、過激派に食い物にされたJR東海の労使関係を正常化した「強者」だと聞いています。一時は、JRの経営者は命がけの仕事でしたよね。そういうあなたから見ると、このように地方民放の私的な既得権を守るために公共放送の名前を利用することは、筋の通らないことではないでしょうか。

 世界的にみても、IPマルチキャストを「通信」として禁止している国は日本しかありません。欧米ではIP放送は放送であり、有線放送と同じく再送信は自由です。「IP放送は放送ではない」という日本の著作権法を説明しても、海外では理解してもらえません。

 電波利権をむさぼってきた民放が滅亡するのは自業自得ですが、彼らのロビー活動によって日本のIP放送が妨害され、さらにクラウド型サービスも違法とされかねないことは、日本のIT産業全体の問題です。このようにおかしな経営方針が取られてきたのは、海老沢勝二元会長の長期政権のもとでビジネスも技術も知らない御殿女中が、ひたすら民放連との協調関係を重視してきたためです。

 あなたは受信料の1割値下げを検討しておられるとのことですが、そんなことは誰も望んでいません。それよりBBCがやったように、アーカイブを著作権フリーで公開し、国民の共有する「コモンズ」としてネット配信も自由にしてはどうでしょうか。公共放送に私的な著作権は必要ないので、これはNHKにしかできないコンテンツ産業の振興策です。

 率直にいって、NHKの職員は民放よりはるかに優秀です。理事の半数も私は知っていますが、みんな知性のある人々です。経営陣さえしっかりすれば、NHKが今後どういう道を取るべきかは明らかだと思います。BBCのトンプソン会長は、NHKの理事会で「BBCはもはや放送局ではない」と言ったそうです。そういう認識を世界と共有し、自己改革に努めれば、NHKがコンテンツ分野でアジアのリーダーになることも不可能ではないでしょう。

敬具


筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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