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ネットアップ クラウド統括担当CTOがディープに語った

買収とData ONTAPの拡張でBig Data時代は乗り切れる?

2011年02月25日 09時00分更新

文● 渡邉利和

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2月23日、ネットアップはプライベートイベント「NetApp Innovation 2011 Tokyo」を開催した。その会場で、米本社のCTOオフィス クラウド統括CTOのヴァル・バーコヴィッチ氏がプレス向けに同社の技術戦略を説明した。

Big Dataの時代へむけた同社の買収戦略

米ネットアップ CTOオフィス クラウド統括担当CTO SNIAクラウドストレージイニシアティブ チェアマン ヴァル・バーコヴィッチ氏

 同氏が指摘した大きなトレンドはアプリケーションの進化だ。同氏はこれを「New Class Applicaion」「New Style Application」と表現する。こうした新世代のアプリケーションは大容量のデータを大量にやりとりするようになる。典型的な例では、コミュニケーションがテキストベースの電子メールからビデオチャットに移り変わっていくといった動きが見られる。ストレージを含むITインフラは、こうした新世代のアプリケーションの普及によって必然的に引き起こされる「Big Dataの時代」に対する対応を迫られる。

 こうした認識を踏まえ、同社では積極的な買収戦略も交え、技術革新に取り組んでいる。たとえば、大量の非構造化データの取り扱いを改善するため、オブジェクトストレージ技術を持つバイキャスト(Bycast)を買収したことがその典型例だ。また、仮想インフラの管理に関する課題を解決するために、運用管理ツール「Balance Point」を擁するアッコーリ(Akorri)の買収も行なった。

仮想インフラ管理の効率化

 仮想化インフラでは、個々のリソースが高度に抽象化されるため、運用管理の負担は軽減されるといわれることが多い。だが、実際には必ずしもそうとばかりもいえず、仮想化によって詳細が隠ぺいされてしまうために実態が把握できなくなるということもあり得る。たとえば、ストレージアクセスのパフォーマンスが期待に満たないといったトラブルに直面した場合、このトラブルシューティングは容易ではない。サーバーの処理能力、ネットワークの帯域、ストレージ自体のパフォーマンスなど、関連する要素は多岐にわたり、どれが原因なのかを直感的に理解することは不可能だ。結果としてトラブルシューティングが長期にわたる技術的に高度な挑戦になってしまったり、キャパシティプランニングの精度が低下し、「実際に運用を開始してみるまで使い勝手の評価ができない」といった問題を抱えることになる。

 Balance Pointはこうした問題を解決するためのインテリジェントなツールだ。VMwareの仮想化インフラに対応する仮想化アプライアンスとして実装され、WMIやSSH、SNMPといった標準的なプロトコルを介してエージェントレスで情報収集を行ない、パフォーマンス分析からトラブルの根本原因の究明などを行なえる。また、推奨構成の提案も行なえるため、運用管理者が独自のノウハウに基づいて高度な分析や構成設計などを行なう負担がなくなり、Balance Pointの提案に従うだけで運用中のインフラの能力をフルに引き出せるようになる。

 同氏はこの効果について「(容量ではなく)パフォーマンスのシンプロビジョニングが実現する」と表現している。

 同社ではストレージ管理ツールとして「OnCommand」を提供しているが、今後Balance PointがOnCommandに統合され、全体として「分析」「管理」「自動化」のサイクルすべてをカバーする計画だという。

アッコーリを追加することで、パフォーマンスのシンプロビジョニングも実現

 クラウド環境においては、現時点ではまずサーバー環境の構築/運用に注目が集まっている状況だ。しかし、クラウド環境に適したストレージシステムの構築も重要なテーマであることは間違いない。クラウド環境を支える基盤インフラとしてストレージの重要性はこれまで以上に高まると同時に、容量も増大することから運用管理を効率よく的確に行なえる体制を整えることは重要な課題だ。ネットアップでは、この問題に関してまずはBalance Pointの導入によって対応を強化したという段階だ。

変革を余儀なくされる?Data ONTAPの未来

 バーコヴィッチ氏はさまざまなテーマについて示唆に富む話をしてくれたのだが、個人的に印象深かったのは同社がこれまで培ってきた「ファイルシステム」の強みと限界に対する認識だ。ネットアップは元々はNASの専業ベンダーとしてビジネスを開始しており、かつて「SANかNASか」といった比較論が盛んだった頃のNAS側の代表企業でもあった。とはいえ、2002年にはSANインターフェイスをサポートし、業界では誰も「SANかNASか」という問いを発しなくなっているが、製品に差がなくなったわけではないという。

 同社のストレージでは、SANもファイルシステムの上に設けられたインターフェイスの1つであり、まずファイルシステムありきという構成になっている。一方、従来型のSANストレージはストレージの物理的なボリュームのイメージを見せてしまい、ファイルシステムはサーバー側で作るというインターフェイスを長く守っていた。この方が余分なオーバヘッドがなく効率的といわれていたのだが、重複排除などさまざまな高度な処理をストレージ側で実装する必要が生じるとこの判断は逆転。今はSANストレージベンダーも独自のファイルシステムを実装する手法に転じつつある。同氏はこれを指して「ネットアップはこのアプローチに長い経験を有しており、簡単には追いつけない」として自信を見せた。

 一方で同氏は「大容量の非構造化データの取り扱いに関しては、オブジェクトストレージのような手法のほうが、ファイルシステム型のストレージより優れた面がある」とも認めている。バイキャストの買収によって同社はオブジェクトストレージ技術を獲得したわけだが、現在はストレージ側は従来通りのData ONTAPファイルシステムを使い、その上にソフトウェアレイヤをかぶせてオブジェクトストレージとしてのインターフェイスを実装するという構成としている。

 実はこの構成だと、最終的にはファイルシステムを介したアクセスになり、オーバーヘッドが生じる可能性が否定できないように思われる。この点について、同社の技術本部本部長の近藤 正孝氏に尋ねたところ、現時点で具体的な話ができる状況ではないとしつつも、将来的にはData ONTAPの側での何らかの機能拡張やオブジェクトストレージ技術との融合などが起こる可能性もあり得ると語った。

 長くネットアップの技術的優位性の土台となっていたData ONTAPだが、新たなBig Dataの時代を迎え、大幅な変革を迫られる状況になりつつあるのかもしれない。ストレージの技術面に注目した場合、この分野での同社の今後の取り組みがどのようなものになるのかが興味深いところだ。

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