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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

「デジタルネイティブ」から「ソーシャルネイティブ」へ

2011年02月21日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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「ソーシャルネイティブ」抜きに
これからのビジネスはあり得ない

 1990年頃に産まれた人たちは、物心がついたときには携帯電話やネットがあり、大学生になった頃にはmixiやGREEが流行っていた。彼らは、最初からソーシャルメディアありきで社会に出てくる、「ソーシャルネイティブ」ともいうべき人たちである。今後、こうした世代が確実に増えてくるのに対して、彼らの行動様式や思考形態を抜きには、マーケティングも企画も何もないだろう。

 日本のデジタル文化は今まで、30代~40代が引っ張ってきた。特に30代は、物心ついたときにファミコンがあり、高校生のときにポケベルブームがあり、大学生になったときにはネットがあったという人が多い。ネット業界で活躍する人の多い「76世代」は、まさにそんな人たちだろう。彼らは、いわゆる「デジタルネイティブ」というべき人たちで、SNSもiPhoneも、彼らがまず手を出したと思われる。

年代別のソーシャルメディア利用比率

年代別のソーシャルメディア利用比率。mixi、Twitter、Facebookいずれも20代の利用率が高い。

 ところがアスキー総研の調査では、たった今のソーシャルメディアの利用率も、そのための重要な道具であるiPhoneの利用率も、20代が最も高いのだ。mixiの利用率は、20代が34.8%と3人に1人が利用。Twitterも20代が25.1%と、4人に1人が利用している。30代・40代は、それぞれ4~7人に1人の割合でしか使っていない。また、「1、2年以内に買いたいもの」としてiPhoneを挙げたのは、10代が約12%と最も高い比率となっている。

 「商品・サービスの評価、その他情報」でのネットの活用の違いは、より顕著である。30代以上では、新しい商品やサービスの情報源を「ブログ」や「ニュースサイト」としている人の比率が高いのに対して、20代は、ソーシャルメディアや動画サイトを情報源にしている傾向が高い。20代ではSNSが8.7%(30代は5.2%)、Twitterが6.6%(30代は3.9%)、YouTubeやニコニコ動画が7.4%(30代は2.7%)となっている。利用率以上に、ソーシャルメディアが消費行動のきっかけになっている比率が高いのだ。

ネイティブマップ

ネイティブマップ(!)。年代と、メディア体験年齢をマッピングしてみた。ソーシャルネイティブとなるはずの世代が、すでに一定のボリュームになっていることがわかる。

 「デジタルネイティブ」から「ソーシャルネイティブ」へというのは、こういうことなのだろう。

 1月下旬、『ソーシャルネイティブの時代』の原稿を印刷会社に入れる頃になって、チュニジア、エジプト情勢が騒がしくなってきた。この2つの国で起きたことに、ソーシャルメディアが果たした役割は大きい。エジプトでは、Facebookが大規模なデモを可能にしたと言われている。ソーシャルメディアによって、人と人のネットワークが活性化しているのは確かなのだ。

すべては「ネットワーク」
に帰結する

 しかし、これはエジプトのムバラク前大統領だけでなく、従来のメディアや政権やほとんどあらゆるビジネスが、「ネットワーク」というものと対峙しているということでもある。

 そう思ったのは、ちょうど1年前の今ごろに起きていたことを思い出したからだ。2009年のクリスマスの日、オランダ発デトロイト行きの航空機で爆破未遂事件があった。そして2010年1月、エジプト情勢をいま毎日のように伝えている米ABCニュースが、この事件のその後について報じていた。

 なぜ、そのニュースをよく覚えているかというと、16もある米国の情報機関のマークが、画面上にズラリと並べられていたからだ。そして、テロに関係する可能性のある情報は、16の情報機関から国家テロ対策センターに報告され、集中的に管理される。空港の管制センターのような部屋の様子が映し出され、「世界中から入ってくるテロの情報をここで分析します」というナレーションが入った。

 しかし、この階層型・集中管理のやり方で、オバマ大統領はテロとの戦いを変えられるのだろうか? 米国が、いまネットワークの研究に熱心なのは、海兵隊のような整然とした組織よりも、自然界のネットワークに近いテロ組織のほうが柔軟で壊れにくいからだという話もあった。このニュースを見たときに、米国が戦っている相手は「ネットワーク」なのだと思ったのだ。

 これから、さまざまな形のネットワークの中でわれわれは暮らすようになり、社会もそれに対応して変化していかなければならないだろう。

 ソーシャルメディアが当たり前の時代に、日本人の消費行動やライフスタイルはどう変化するのか? 『ソーシャルネイティブの時代』では、そのヒントとなるデータとトピックを拾って掲載している。アスキー総研の1万人調査「MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)」の2011年版の集計と並行して執筆したために、本当にイントロダクションというレベルだが、少しでもご興味のある方は手にとっていただけるとうれしい。

追伸:この2月には、アスキー総研/編として、52人のキーマンに日本のITのこれからについて提言していただいた『新IT時代への提言2011 ソーシャル社会が日本を変える』も刊行された。こちらも併せてご覧あれ。


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