恐怖ですぞ~!その「世間様」とは何でござるか!
これがオタクの生きる道!「海月姫」監督に聞く【前編】
2011年02月19日 12時00分更新
尼~ずが苦手な「世間様」
大森 視聴者の共感ということで言えば、そうしたポジティブさと同時に、苦手なものに対する反応はやたら極端だったりして、彼女たちの反応に対するわかりやすさへの安心感みたいなのがあるという気はします。仕事のことを聞かれると石化したり、スーツの人を見るとビビって近づけなかったり、視聴者からも「これはきっと尼~ずって苦手なんだよ」という風に見えていて、ほら、その通りだった、みたいな納得が得られる。
―― 尼~ずは、立派なものが苦手なんでしょうか。社会人としてあるべき姿とかを突きつけられると逃げてしまう、というような。
大森 きっと多かれ少なかれ、誰でも「ちゃんとしなさいコンプレックス」みたいなものがあるんじゃないかと思うんです。ちゃんとしなさいということに対する抵抗感が、尼~ずは極端に出ていて、みんなの気持ちを代弁してくれているのかもしれないですね。
(C)東村アキコ・講談社/海月姫製作委員会
―― 尼~ずのようにニート的な暮らしというのは、ちょっと後ろめたくても、今の時代は生きていけます。昔だったら、もっと難しかったはずですね。
大森 昔は、他の選択肢がなかったという感じはありますよね。何かしら格好をつけさせられる、「ちゃんとしなさい」という強制力は強かったんじゃないですか。ステレオタイプな例ですけど、女の子がお嫁に行ってないと、昔だったら「世間様は」みたいなことを言われた。それでお見合いなり何なり、強制的に格好をつけさせられるようになっていったというか。昔の時代に生きた人たちは、ある意味抵抗感も飲み込んで、その中にちゃんと幸せを見出して、みんな生きてきていたと思うんですね。
だけど今は、個人の自由度が上がっ、「ちゃんと」が強制力を持たなくなった分、自分自身が「ちゃんとしなきゃいけないんじゃないか」「世間様と比べて自分は劣っているんじゃないか」という劣等感に直接つながりやすい、それが悩みなんじゃないかという気がするんですよね。ちゃんとやっていない自分は社会人失格なんじゃないかと思ってしまったりする。そういう悩みは昔の人よりも深いのかなと。
(C)東村アキコ・講談社/海月姫製作委員会
―― 「ちゃんとしないといけない」という縛りを、自分自身で作ってしまっているということでしょうか。
大森 そうだと思います。世間様に対して恥ずかしいというフレーズは、今は実際に他人から言われるよりも、自分の心の中で自分が言っている。幻想の「世間様」を自分で作ってしまっていることの方が多いんじゃないかなと。
見る側にとっては、尼~ずのダメなところに共感する一方で、好きなことだけやっているところがある種の憧れなのかもしれないですね。生活はほぼニートですけど、本人たちは人生を謳歌している。自分の好きなものに囲まれた「ぬるま湯」の中にいられるように、そのためにはがんばる。
世間様を代表するようなものが登場するとビビるんだけれども、最終的には振り切っているんですよね。それは、自分の生きる基準が「世間様のモノサシ」にあるのではなくて、「自分のモノサシ」を持っているということかもしれないですね。
(C)東村アキコ・講談社/海月姫製作委員会
(後編に続く)
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
コミック&DVD発売情報
原作コミック「海月姫」は現在6巻まで発売中。講談社漫画賞を受賞し、売り上げは累計90万部を超える。アニメは現在、DVD&Blu-rayが第2巻まで発売中(3~4巻も予約可)。数量限定生産版には「しゃべる!クララマスコット」付き。お見逃しなく。
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