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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第13回

存在しない「欧米市場」は狙わない

「鋼の錬金術師」プロデューサー、次の狙いは?【後編】

2011年02月12日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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日本のコンテンツ市場にも、まだ伸びしろはある

―― 日本では、コミック市場は成熟したので、伸びしろが少ないのではという声もあります。日本のコミック市場は、まだこれから発展の可能性があると思いますか。

田口 それは全然あると思いますよ。ゲーム業界では、ゲームが売れないと言われている中でも、GREEは二百数十億円の利益を上げているわけでしょう。お客さんはいるんですよ。関心の向く先が変わっただけなので。GREEについては、まだ掘り起こされていなかった層もいたってことですよね。

 この状況を、10年前には誰も予測してなかった。今はどんどん変化のスピードが上がっていますから、5年後、10年後、何が起こるかなんて誰にもわからない。日本市場の発展の可能性は十分あるでしょうね。

 もちろん、昔と同じやり方をやっていてもだめなんだろうなと思います。たとえば今、ゴールデン枠にアニメをかけるのは難しい。それはもう見る側の生活習慣が違うからしょうがない。同じ小学生でも塾に行っている子と行かない子がいて、地方によっても違いがある。前と同じようなやり方でやっても、同じように回収はできない。だったら、今のお客さんたちに合わせて作っていくしかないんだろうなと。

―― ビッグコンテンツひとつで回収という時代ではないですね。お客さんの層が細分化されてしまった結果、ひとつひとつのパイが小さくなって「同じパイの食い合い」的な状況を生んでいるのでしょうか。

田口 いや、細分化によって一個一個のパイが小さくなるというわけじゃないと思いますよ。そこは掘り起こしですよね。

―― GREEのようないわゆる「一般層」ではなく、すでに飽和状態ではないかと言われている「オタク」的なフィールドでも、まだ広がる伸びしろはあると?

田口 「オタク」とひとくくりにしているのが、さっきの「欧米市場」という言葉と同じようなものだと思うんです。オタクというのはもうひとくくりにできないですよね。ここまで多様性を持って膨らんじゃうと。そこは、お客さんをよく見てセグメント(分割)していけば、掘り起こしは可能だと思います。


細分化を逆手に取る

田口 ユーザーが細分化されてきているのは確かです。でも、細分化の時代にはそれにあったやり方があると思います。ユーザーの気質を細かくセグメントしていって、でもこの層とこの層はくっつけられるぞ、みたいなやり方もある。

 仮にユーザーの気質を、縦軸と横軸、それぞれに基準を作って、4×4で16個ぐらいに分けたとしましょう。すると、この層とあの層は好きなものがまったく離れているけど、こっちの層とこっちの層なら、好きなものがかぶっている部分がある。「じゃあこのコンテンツなら4つくらいは共有できる」とか、「16個全部カバーできる」とか、作品ごとに考えていけると思うんです。

 そういった形で、細分化した中でも、くっつけたり離したりしながら広げられると思うんですね。

―― つまり、細分化を逆手に取るわけですね。

田口 ある層に照準を合わせるのが良いときもあれば、いろんな層に向けてまとめてやった方がいいときもあると思います。うちの雑誌で言うと、「ヤングガンガン」がそれです。

 「荒川アンダー ザ ブリッジ」も、「咲-Saki-」も、「DARKER THAN BLACK」も。青年誌なのに、なぜか美少年が主人公の「STAR DRIVER 輝きのタクト」もできてしまう(笑)。青年誌も、各社各誌でコンセプトは違うでしょうけど、うちは「ごった煮」でやってます。

 これも、雑誌自体の売り上げでは回収できないことを逆手に取った冒険ですよね。青年誌はコミックスを買って下さるファンが多いから、雑誌は冒険する場にする。こうした割り切りが必要じゃないかなと。

―― 媒体によってありようを変えるということですね。

田口 そうですね。それから、コンテンツを載せる媒体も同じものにこだわる必要はないですよ。ペーパーもあれば、ケータイもある。じゃあパソコンになったらどうなのか。iPadになったらどうなるのか。また別のお客さんがいると思うんです。うちでも、Webマンガ誌の「ガンガンONLINE」を、これまではパソコン向けだけだったのを、iPhone/iPadに広げました。

 今のは「立体」、媒体から見た切り方ですよね。これを「面」、地域に切り替えてみることもできます。うちには、フランスで10万部のアベレージを叩き出し、日本国内の売上金額を上回ったタイトルがあるんですよ。フランスで10万部といったら、日本でいうとミリオンクラスに相当するといっても過言じゃない。そういうケースもあるわけです。

 媒体でも地域でも、ユーザーの違いがあるわけで。違いがあるということは、媒体ごとに、地域ごとにお客さんがいるということじゃないですか。

(次のページに続きます)

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