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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第13回

存在しない「欧米市場」は狙わない

「鋼の錬金術師」プロデューサー、次の狙いは?【後編】

2011年02月12日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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「思い」をアナライズしていく

―― 掘り起こしのために、地域や媒体ごとに違うお客さんを「細かく見ていく」というお話でしたが、具体的にはどのようなことをされていますか。

田口 見るものは2つですね。「データ」と「思い」。これをアナライズ(分析)していきます。部下たちと話すときは、どちらかというとデータのことを注視して言います。データがない中での分析と結論出しは非常に危険なことなので。

―― 過去からのデータがあるというお話でしたが(前編を参照)、やはりデータ分析ですか。

田口 もちろんデータは大事です。アンケート順位、コミックの部数、アニメならどこの枠か、そこから始まる分析もある。でも「思い」も要る。「その作品に対して自分がどう思ったか」。思いが生じたものは、自分の中で分析していくと、必ず根拠がある。自分の中の気持ちをどんどん掘り下げていくんです。

 このマンガ面白いな、絶対にこれ当たるよなと思ったときに、心の中にある「なぜ自分がそう思っているのか」をアナライズしていくと見えてくると思うんですよ。自分が当たると思っている作品や要素はどんなものなのか、ということを。

―― 深く掘り下げていくと当たる理由が見つかると。けれど、当たるだろうと思ったものが必ずしも当たるわけではない……ですよね。

田口 だから、「どうして当たらなかったのかな」と、逆にアナライズすればいいと思うんですよ。自分は面白いなと思ったんだけど、当たらなかった作品というのを見ているでしょう。当たった作品のことだけ研究するんじゃなくて、両方研究すべきじゃないかなと。

 面白いのにどうして当たらなかったのか。いや、ここで俺が思った分析が間違っていたんじゃないか? という検証が始まる。じゃあ、なぜ世間の評価とズレたんだろうとか、さらに深く入っていくでしょう。

 当たった作品でも、自分には面白さがわからないものもあるんですよ。飛行機の機内で、とある海外映画を観たんですよ。日本でも上映していて流行っているらしい。全世界で原作が何千万部も売れているというデータもある。

 見てみたら、これがわからない、つまらないんですよ、僕にとっては。でも何かあるはずだからと思って、帰国してからそのシリーズの1~3まで6時間見た。でもわからない。朝の専務会でも、社長たちとも、編集者たちや宣伝部の女の子にも聞いてみたのに答えが出ない。そうしたら、僕の秘書の女性が「……私、そのDVD全部持っているんです」って(笑)。

 こんな近くにコアユーザーがいた。彼女にインタビューして、何とか秘密を解き明かしたいなと思っていますけど。

―― 社内中に聞かれたんですね。なぜそこまで。

田口 わからないままだと悔しいんですよね、やっぱり。みんなが面白いと思っているものが、なぜ自分にはわからないんだろうと。

 分析には、とにかく色んな人と話すことが有効だと思うんですよ。自分の視点だけじゃなくて他人の視点も知る。結構、昔よりも作品について話ができる環境にはなったと思うんですよね。mixiでも、Twitterでも、みんなやりとりしていて。情報収集はやりやすくなっていると思うんですよ。逆に情報があり過ぎて困ってしまうぐらいだし。

 だからそのあと、情報をどう整理して考えていくかということじゃないかなと。

(次のページに続きます)

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