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鳥居一豊の「最新AVプロダクツ一刀両断」 第27回

マニュアルMCACCで濃密カスタマイズ

格闘系AVマニアに贈る逸品! パイオニア「SC-LX83」(後編)

2011年02月09日 12時00分更新

文● 鳥居一豊

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補正したデータをPCでグラフィカルに確認

PCでフロントスピーカーの残響特性を表示。左が補正前、右が補正後。三次元表示で視認性が優れる。グラフの拡大・縮小や回転も可能だ

各チャンネルの残響特性を分割画面で表示することも可能。左が補正前、右が補正後。63Hzと16kHzあたりに改善の余地があることがわかる

こちらは群遅延特性の三次元グラフ。こちらも3D表示で波形のバラツキがわかりやすい。左が補正前、右が補正後

すべての測定データを一覧することも可能。メモリーした6つの測定値を比較できる

すべての測定データを一覧することも可能。メモリーした6つの測定値を比較できる

 PC画面では、よりグラフィカルな3D表示となっており、見ているだけで楽しい。ただし、これらは補正データの表示のみの機能となっており、補正データを変更し、AVアンプに書き戻して反映する機能はない。

 補正データの変更はAVアンプ側の設定で行なう。その分、それぞれのグラフにメモを書き込むこともできるし、スピーカーの位置を変えた場合や、部屋の環境が変わったときなど、それぞれのデータを保存しておけば、分析もよりしやすくなるだろう。

「EQプロフェッショナル」では、9バンドのイコライザー補正を自分の耳で微調整できるほか、補正後の残響特性を測定し、客観的に分析できる

「EQプロフェッショナル」では、9バンドのイコライザー補正を自分の耳で微調整できるほか、補正後の残響特性を測定し、客観的に分析できる

 また、補正後のデータは演算による予測値だが、マニュアルMCACCの「EQプロフェッショナル」を使えば、補正後の残響特性を実測することもできる。これらを使えば、例えば吸音材や部屋の音響特性を左右するカーテンなどの調整による変化をチェックすることも可能だ。

 使いこなせばちょっとした測定器として活用できるのだ。こうした客観的な測定データと聴感による主観評価を組み合わせれば、サラウンド空間をはじめとする音響特性の調整がやりやすくなるだろう。もちろん、メインとなるフロントスピーカーとの格闘でも強力な武器となるはず。

 これらのデータは、筆者自身も完全に理解できていない部分もあるし、取材で使用した3日間では十分な分析もできていない。データを活用するためには、グラフが示す内容を理解できるようにするなど、ある程度の知識も必要だ。

 その意味で、取扱説明書は基本的なオーディオ知識やスピーカー配置などのアドバイスも掲載されているので、格闘派のAVマニアならば熟読すべき書物だ。MCACCのPC用表示アプリケーションのマニュアルもPDFでダウンロードでき、こちらにはグラフの見方や音響調整に活用するための知識なども掲載されているので合わせて熟読したい。

 なお、アドバンスドMCACCには、本機とSC-LX90だけがフルバンドフェーズコントロール対応など、機能には違いがあるが、現行モデルならばローエンドのVSX-820を除くモデルがマニュアルMCACC機能を備えているので、一度試してみるといいだろう。

SC-LX83に搭載された高音質技術

 単純に音を紹介する前に、本機の主な高音質技術にも触れておきたい。まず、本機は「Hi-bit32/Hi-sampling Audio Processing」を採用している。これは、入力された信号を32bitに拡張し、よりアナログ波形に近い緻密なデジタル信号処理を行なうもの。これに合わせ、熟成度を高めた第4世代の「ダイレクトエナジーHDアンプ」との相乗効果で、よりディテールの再現性が高まり、リアルな再生を可能にしている。

 そして、同社の対応BDプレーヤーなどと連携してジッターの大幅な低減を可能にする伝送技術「PQLS」も、これまでのリニアPCM伝送だけでなく、ビットストリーム信号の伝送に対応した。

 CDの2チャンネル信号(リニアPCM)はもちろん、DVDやBDのマルチチャンネル信号もデコードされたリニアPCM信号と、記録された信号そのままのビットストリーム信号で伝送できることになる。

 こうした機能は、アドバンスドMCACCのEQ補正/定在波制御/フルバンドフェイズコントロールなどと同様に、個別にON/OFFが可能なので、それぞれの効果を耳で確認できるようになっている。

ガシっと芯の通った筋肉質の音が、映画も音楽も、鮮明に描き出す

 最後に、本機の最大の魅力である音質について紹介しよう。ちなみに、音場補正は、フルオートMCACCの測定の後にマニュアルMCACCで微調整を加えたもの。EQモードは推奨である「SYMMETRY」としている。

 まずはCDでAVアンプ自体の音質を聴いてみる。プレーヤーはPQLS伝送に対応した同社のBDプレーヤー「BDP-LX54」を使っている。まずPQLS“OFF”で聴いてみると、骨太でがっしりとした音の質感に気付く。ベートベンの交響曲第9番を聴くと、第4楽章の合唱もひとりひとりの声に厚みがあり、スピーカーの間に人がいるような実体感を感じさせる。第4楽章の冒頭でのコントラバスの太い響きは力強さと重量感を兼ね備え、そのパワー感は圧倒的だ。

 ここからPQLSを“ON”にすると、まずはS/N感が明らかに向上する。音の粒立ちがさらに明瞭になるし、細かい音の響きなどがさらに際立ってくる。これらにより、カメラのフォーカスがビシッと合ったように音像が締まる。音の前後感もさらに明瞭になる印象だ。まさにベールを一枚剥がしたような、見通しのよい音場になると感じた。

 PQLSの仕組みは、AVアンプ側のクロックにプレーヤーを同期させ、データの転送を最適に制御することで伝送時の時間的なズレ(ジッター)を解消するもの。この仕組み自体は他社も採用しているが、今のところは各社とも独自の規格で互換性がない。そのため、他社との組み合わせができず、PQLSに対応したプレーヤー自体が少ないなどの難点はある。しかし、その効果はかなりのものだと感じた。

 続いて、Hi-bit32/Hi-sampling Audio ProcessingのON/OFFを試してみた。これは、高垣彩陽の「You Raise Me Up」や、テレビアニメ主題歌「God only Knows」などのポップス系の曲では、あまり大きな差が感じられなかった。

 先ほどの「第9」やハービー・ハンコックの「処女航海」などを聴くと、微小な音の響きがより細やかになり、音色のわずかな変化などがよく再現されるようになった。聴いてすぐにわかるような大きな変化ではないが、音色の艶や音の張りなど、聴き込んでいくと細かな表情がより精密に再現されるとわかる。

 OFFに戻すとやや高域が硬質で角が立ったような印象になる。ロック・ポップス系の曲を聴いても少し荒っぽく感じるようになってしまうので、基本的にはONのまま常用していいだろう。

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