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空から電気が降ってくる! 宇宙太陽光発電が進行中

「ガンダム00」の世界がたった25年後に実現!?

2011年02月02日 12時00分更新

文● 秋山文野

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宇宙太陽光発電システムの実現には、まず宇宙観光ブームが必要だという

宇宙太陽光発電システムには、宇宙観光ブームが必須!?

 アメリカでは1968年に提唱され、建造の具体案まで作られた宇宙太陽光発電システムだが、なぜ凍結されたのだろうか(現在は再開している)。

 理由はなんといってもコストである。日本の構想は現実的な路線だが、それでも商用化にあたって避けて通れない課題がある。

 それは総重量2万トン(USEFが想定するテザー方式の衛星を組み合わせたモデル)の資材を、現状のロケットで軌道へ輸送する場合、エネルギー創出で得られる利益が建設コストを消化しないうちに、宇宙太陽光発電システムの寿命が来てしまうこと。

 目指すべき宇宙輸送コストは現状の1/50~1/100。今はペイロード1kgあたり100万円と言われているので、それを1~2万円にまで下げる必要がある。

 実際問題としてそれは可能なのか? 研究者の一部では、「宇宙太陽光発電システム派と宇宙エレベーター派は手を携えるべきときだ」として、宇宙エレベーター(Space Elavator:SE)での輸送を期待する声もある。しかし、その宇宙エレベーターも素材開発の進展を待っている状態で、宇宙太陽光発電システムに先行できると請け負えるわけではない。

JAXAの研究開発担当者・福室氏のインタビューページ。発電衛星からの送電技術では日本が一歩リードしているという

 ではどうするか? それを実現するのは宇宙観光かもしれない。パトリック・コリンズ教授曰く、「日本のハブは仁川です」という。韓国の仁川国際空港が、日本のハブ空港としての地位を確立しているとはよく言われることだ。

 ならば、現在の航空業界のビジネスモデルで競争に打ち勝つことを考えるよりも、「稼働率が低い国内のハブ空港、例えば茨城空港をスペースポート、つまり宇宙港にしましょう」(コリンズ教授)というのだ。

 現在、弾道飛行レベルの宇宙旅行代金は、民間宇宙旅客機「スペースシップ2」で2000万円だが、ニーズを開拓し、地方空港をスペースポート化して商業化、しかるのちに飛行回数を増やす(航空業界が今までやってきたビジネスモデルだ)ことで、弾道飛行型宇宙旅行を50万円にまで下げるのだという。

 そうすれば新産業として成り立つだけでなく、弾道飛行と再使用宇宙輸送機が当たり前のものになって、宇宙太陽光発電システムの資材輸送費も劇的に下がるはずだ。

 要するに、現在の“人工衛星・宇宙機輸送のための使い捨てロケット”という枠組みの中では、宇宙輸送コストの大幅低減は難しいという発想である。

 ただし、この提案で日本の宇宙旅行が産業としてトップシェアを取れるのは、今後10年以内に商業化に取り組む動きが現われた場合に限るという。商用宇宙旅行を考えているのは日本だけではない。他国に先んじられた場合、ニーズが分散してしまうので、1/50~1/100というコスト低減は難しくなる。

関連技術は揃い始めているものの、建設コストを考えると費用対効果に見合わないのが現状だ

認知度向上が目下の課題

 では、宇宙輸送コストを下げる以外のプランはないのか? 実はロケット屋さんの側からもアイデアが出てきている。三菱重工の提案は、むしろ宇宙太陽光発電システムを軽量化、小規模化して現状のロケットでまず1基打ち上げることを考えてはどうか、というもの。

 電装品の重さは1/2になると考え、H2-Aで火力発電所1基分の規模となる47kWの宇宙太陽光発電システムを打ち上げる。打ち上げ先も低軌道で、とにかくまずスピーディに「目に見えるものを作りましょう」というプランである。

 宇宙太陽光発電システムの理念は素晴らしいものの、具体的にイメージできるものが少ないという弱みがあるため、規模を縮小してもそこを何とかするべきでは、というのが事業者側からの提案だ。これはなかなかグラッとくる話で、宇宙太陽光発電システム研究会前代表幹事の松岡秀雄教授は、このプランを推している。

国際協力と商業化への道筋が必須事項

 それに対し、JAXA佐々木進教授は「宇宙輸送コスト低減と電装品重量の軽減、実現にあたって、かなりのブレークスルーが必要だという点では同じではないでしょうか」という懸念も表明している。この先議論の進展を待ちたいところだ。

 商用化実現にあたっては、まず国際協力で技術を固める期間があり、その後電力会社などの参入があってようやく実用化に至るのではないか、というのが佐々木教授の意見だ。日本だけで要素技術を確立するのは難しいだけでなく、静止軌道の占有には国際協力が重要だという。

 ただし、規格化などの面で日本が主導権を取るためには、技術で先行して主要プレイヤーの地位を確立することが必要だ。

 そのためには研究を進めるしかないわけだが、それには核融合並みに人々の関心を集め、研究自体にも盛り上がりが必須。技術は実際にやってみた人だけが手にできるものなのだ。

5年以内に「きぼう」からの伝送実験も

 ところがJAXAが行なった2年に1度の意識調査では、宇宙太陽光発電システムについて「知っている」は30%程度のまま推移しているという。地上での太陽光発電は認知度がどんどん上がっているにも関わらずだ。

 しかし興味深いことに、宇宙太陽光発電システムがどのような構想なのか説明すると、「それは必要」と回答する人が多いのだ。これはやはり宇宙太陽光発電システムがイメージしにくい、逆に言えば、目に見えるものが必要ということではないだろうか。

 イメージを確立するひとつの方向は、軌道上での実験だ。

 宇宙基本計画にも盛り込まれているが、小型衛星を使った軌道実験、それから国際宇宙ステーション 日本実験棟「きぼう」からの伝送実験が検討されている。ここで「きぼう」から実験できる意義は大きいだろう。

 すでにその存在、イメージが認知されている「きぼう」で、エネルギーの将来につながる実験が行なわれ、電力が降ってきて地上に灯がともる。これはわかりやすい。

 ただ、大出力のマイクロ波を送信する実験だけに、ISSの各種機器へ悪影響を与えるのでは? という懸念も大きいという。それはわかるし、対策も必要だろう。しかし宇宙太陽光発電システムを未来技術のイメージとして共有するためには、ハードルを越えて実現してほしいものだ。

 次年度以降に検討が行なわれ、実現するとすれば今後5年以内だ。その様子を、ぜひとも目にしたいところである。

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