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空から電気が降ってくる! 宇宙太陽光発電が進行中

「ガンダム00」の世界がたった25年後に実現!?

2011年02月02日 12時00分更新

文● 秋山文野

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広大な敷地が必要になる受電施設を、洋上に建設するアイデアも。(提供:財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構)

 現在、宇宙太陽光発電システムのコンセプトとして考えられているのは、前述の無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)が提唱する「テザーSPS」と呼ばれるタイプだ。

 これは静止軌道上に直径100×95mの太陽光発電パネルを持つ衛星を打ち上げるもの。太陽発電パネルは裏面が送電アンテナとなった一体型発送電モジュールで、マイクロ波に変換してエネルギーを地上の受電施設に送信する。発電量は2万kW程度だという。

 テザーと呼ばれる理由は、衛星バス部(基幹部)からテザー(ひも)状の素材で発送電モジュールを吊り、“重力勾配力”と呼ばれる巨大構造物特有の力で安定した姿勢を保たせるから。

 この方式なら、太陽を追尾するための駆動部分が必要ない。太陽指向型よりやや発電効率が落ちるものの、寿命を制限する駆動部分がないため、シンプルかつ安全な設計になるのだ。

「テザーSPS」方式の宇宙太陽光発電システム。イラスト左上の小さな物体が衛星の基幹部分。そこからテザー(ひも)を伸ばして発送電モジュールを吊り下げている

太陽光発電衛星は“複合機化”が必須

 こうした宇宙太陽光発電システムは初期段階ではシングルバスシステム、要は1基で動作する形だが、ユニットとして衛星を逐次追加できる設計にすることで大規模化できる。商用ベースの発電量を得るため、静止軌道上に数百基の発電衛星が並ぶ構想もある。

 ただし、静止軌道は限られたリソースだ。0.1度につき1基という現在の制限のままなら、全体で3600基しか置けない。そのうち数百基を日本の太陽光発電衛星が占めてしまうのでは、国際問題になること必至だ。そのため、通信・放送衛星との複合機にするなどといった対策が必要になる。

 宇宙太陽光発電システムのマイルストーンとして、まず軌道実験のため1kw級の小型発電衛星が検討されている。太陽電池パネルの大きさは2×2mとまさに最初の一歩。打ち上げ先は低軌道だ。次に、これを拡大した100kW級の大型衛星を打ち上げる。NEDOのロードマップによれば、2015年から2025年にかけてはこのようなフェーズとなる。

宇宙太陽光発電システムのロードマップ。2025年頃には実用域に達する発電衛星が誕生するという

日本がエネルギー輸出国になる可能性も

 地上への送電には、5.8GHz帯を使用したマイクロ波方式(M-SSPS)が想定されている。メリットは通信・放送衛星での運用実績があること、そして大気での減衰が少ないことだ。

 ただし、マイクロ波伝送の場合、とにかく地上の受電設備が大きくなる。1GW級発電システムの受電設備は、直径約4kmと見積もられている。直径4kmの土地を、電力設備のためだけに確保するとなると、コストもそれなりに見込まなくてはならない。

 また、マイクロ波は後述するように航空機や動物に危険を及ぼさないレベルで照射されるとはいえ、受電施設内は基本的に立ち入り禁止で、往来ができるような場所ではない。電力需要の大きい大都市近郊に作ることは、かなり難しいだろう。

 解決策としては洋上での建設が挙げられる。また、「日本国内に直径3kmの受電設備を作ろうとすると、土地のコストが相当かかりますよね。特に大都市近郊でそれは難しい。むしろ赤道に近い国々にエネルギーを輸出する手段として考えてもいいと思うのです」(コリンズ教授)といった大胆な案も存在する。

発電したエネルギーを地上にピンポイントで降ろす方法は?

 マイクロ波の研究で推し進めなくてはならないのが、狙ったところに伝送する制御技術。

 送電には「フェイズドアレイアンテナ」と呼ばれる、小さなアンテナ素子を数多く並べて、任意の方向にマイクロ波を送れるアンテナを使用する。このアンテナから確実に地上の狙った位置へマイクロ波を送電できるようにする制御技術を「レトロディレクティブ」と言う。

 これは地上の受電部から送電アンテナへパイロット信号を送信し、送電部分へ送信先情報を知らせるというもの。いくらエネルギー密度を抑えてあるとはいえ、受電設備以外にマイクロ波を送ってしまったら大変だ。なにより発電の意味がない。この技術を洗練させることが、宇宙太陽光発電システムのカギといってもいい。

 現在の目標は、屋外で100m程度離れた受電部へkw級の電力を正しく送信できるか、という地上試験の実施だ。小さいことから着実に、である。ここを担当しているのがUSEF、そして同じくマイクロ波方式の旗振り役の一人でもある、松本紘総長率いる京都大学だ。

送電パネルの面積が発電量を決定する。2030年代には、現在の原子力発電所1基分に相当する発電量を賄うシステムが完成する見込みだ

 一方、レーザー送電式(L-SSPS)の場合、エネルギー密度が高いので受電設備が小さくて済むのが最大のメリットだ。ただし、大気や雨で減衰する。せっかく天候に左右されずに宇宙空間で発電できても、送電の段階で天候に左右されるのではもったいないという面はある。

 また、発電効率は現状で20%程度。マイクロ波の50~70%に比べると効率が低いのも問題点だ。太陽光から直接励起するレーザー媒質の開発なども必要なため、マイクロ波方式よりやや遅れて研究が進んでいる、という段階だろうか。しかし、いずれ両方式を比較検討する段階が来ることは間違いない。

低軌道を飛ぶ衛星への被害は?

 さて、マイクロ波やレーザーでエネルギーを伝送するというと、必ず出てくる疑問が「施設上空を飛ぶ鳥が焼けませんか?」だ。

 航空機への影響はもちろんのこと、巨大なエネルギーが3万6000km上空から降ってくるとなったら、それは確かに心配になる。当然のことながら、真っ先に検討されている課題である。

 NASAの初期構想の数値では、大まかに言えば太陽光と同程度のエネルギーとされている。現在必要なのは、長期に渡ってマイクロ波を受けた場合の土壌や植生、微生物への影響だ。これは地上での無線伝送への応用も含めて実証実験中だ。

 生物への安全性は早くから検討されているが、今後進めなくてはならないのはむしろ「発電衛星よりも低軌道を飛ぶ衛星を破壊する恐れはないか?」ということ。高出力のマイクロ波が通る空間を人工衛星が通過していくと、衛星内部で放電を引き起こすことも懸念される。衛星クラッシャーになってはマズいので、この部分は研究の進展が待たれるところだ。

 また、宇宙太陽光発電システムは巨大構造物であるため、軌道上での組み立ても研究テーマのひとつになっている。例えば、折りたたんだパネルを自動展開する方法として、50cm四方のパネルを形状記憶合金のヒンジで展開する技術などが検討されている。

 その他、宇宙作業ロボットでパネルを貼る、薄膜を宇宙で膨らませる(インフレータブル構造)などアイデア段階の方法も数多い。

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