TSMCのつまづきが誤算となって登場した
40nmプロセスのRadeon HD 6000シリーズ
ここまでが、2010年第1四半期の動きである。これに続いてAMDは、「Islandシリーズ」と呼ばれる製品の開発を進めていた。ところが大誤算だったのは、台湾TSMCが32nmプロセスの開発に失敗し、これをスキップして28nmプロセスへの移行を進めたことだ。
この問題は、プロセスの微細化に合わせてシェーダー数を倍増させることで性能を上げる、というスタンスで製品展開してきたAMDとNVIDIAにとっては、新製品を出せなくなるという大打撃につながった。とはいえ、「では28nmプロセスが実用化されるまでの2年間を、Evergreen系列でつなげられるか?」というとそれも苦しい。そんなこんなで、当初の予定とはちょっと違った形で、製品が投入されることになった。
最初に投入されたのは、ハイエンド向けに開発されていた「Cayman」コアではなく、メインストリーム向けの「Barts」コアである。「Radeon HD 6870/6850」として2010年10月に投入されたこの製品は、スペックだけ見るとRadeon HD 5830の高速版といった趣である。実際にRadeon HD 5870には性能面でやや及ばないとはいえ、Radeon HD 5850はやや上回る性能を発揮したし、消費電力はやや低め(公称では待機時がやや低め、フル稼働時が同等)に抑えられている。
基本的なアーキテクチャーはCypressと同じだが、内部の最適化や高効率化を図り、またメモリーアクセスに関しても最適化を進めた。その結果として、Cypressよりも少ない規模のシェーダーで、同等の性能を発揮できるようにしたと同社では説明している。
これに引き続き、2010年12月に発表されたのがCaymanコアの「Radeon HD 6970/6950」である。こちらはアーキテクチャー上でも変更があり、シェーダー内部のVLIWエンジンをCypress/Barts系列の5命令並列から、4命令並列に変更して利用効率を引き上げるなど、ややGPGPU寄りの性格を持った製品となった。
ただ、この結果としてダイサイズは389mm2と、かなり大きくなり(Bartsは255mm2)、価格的にハイエンド品でないと許されない製品になった。もっともAMDもこれは承知しており、逆に「ハイエンド品だから多少高くても許容される」と判断して、このハイエンド品でアーキテクチャー変更を行なったようだ。
Caymanは、性能的にはもちろんCypressを超える性能を発揮したが、NVIDIAとの比較という観点になると、Radeon HD 6970が「GeForce GTX 570」と同等かやや劣る程度となっている。市場価格もこれを反映していて、品薄状態が続いてはいるがRadeon HD 6970で3万円台後半。対してGeForce GTX 570は3万円台後半~4万円弱というあたりで、性能と価格のバランスは取れているといったところだ。
32nmのキャンセルで救われた? Fermiの第2世代
NVIDIAにとっては、TSMCの32nmプロセスの遅れが結果的に幸いとなった。40nmプロセスで製造された「Fermi」の第1世代(GeForce GTX 400シリーズ)は、アーキテクチャーの問題のみならず物理設計上の問題もあって、歩留まりは低いわ動作周波数が上がらないわ消費電力が高いわ、という問題を抱えることになった。
ところが32nmのキャンセルにより、40nmの設計をもう一度やり直す時間的余裕が生まれたことになり、これが「GeForce GTX 500」シリーズという形で実を結んだからだ。Radeon HD 5000シリーズとの競争では大きく水をあけられてしまったFermiの第1世代だが、第2世代で遅れを取り戻すことに成功しているのは、NVIDIAにとっては結果的に喜ばしい状況になっていると言えよう。
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