流通を管理し続けるか、市場に委ねるか?
このように2010年の動きを振り返ると、本というコンテンツの流通を、誰が管理し、そこからの収益をいかに分配するのかという本質的な疑問に突き当たる。従来は、そのコントロールについて各プレイヤーがあまり意識をしなくても、再販制度による定価販売、取次から書店への配本という整備された仕組みの中で出版ビジネスは成立していた。
しかし、これからはどうだろうか? 出版社は、電子化しネットの海に放たれ始めたコンテンツをどこまで管理すればいいのか。そして、それによって収益を確保し続けることができるのだろうか。
漫画家の赤松健氏が2010年11月にスタートさせた広告型無料マンガ配信サイト「Jコミ」は、その問いかけへの1つの強烈な回答であったと感じている(関連記事)。
「Jコミ」はあくまでも絶版となり、出版社のビジネスから外れた作品を対象としているが、氏の「DRM(デジタル著作権管理)は一切かけない」「複製し再配布も自由」という方針は、従来の流通経路と価格をコントロールすることで収益化を図るビジネスモデルとは一線を画すものだ。
一方で、国内ではまだハードウェア、コンテンツともに正式販売されていないにも関わらず前評判の高いAmazonのKindleは、独自DRM(AZW方式)でコンテンツをパッケージしている。しかしAmazonは、電子書籍端末としてのKindleだけでなく、ありとあらゆるプラットフォーム向けにソフトウェア版のKindleを提供することで、利用者がDRMの存在を意識することなく読書を続けられる世界を実現しようとしている。
流通をコントロールせず、徹底的にユーザーの手にコンテンツを委ねて(おそらく)少しずつ返ってくる収益を蓄積して分配するか、あるいは、インフラとコンテンツのラインナップを徹底的に整備して、プラットフォームやDRMの制約を意識させない「世界」を作り上げ、ユーザーの支持を獲得するか。
どちらも特定の端末やプラットフォームに読者を囲い込む戦略ではないことも興味深い。JコミとAmazon、2つの対照的な動きは今後も要注目だ。
書籍版JASRACが登場するか?
2009年にスキャン書籍のWeb検索を可能とした「Googleブックサーチ」が、書き手や出版社からの反発をもって迎えられた。翌年にはその反省に立ち、書き手・出版社が閲覧範囲や課金などを細かくコントロールできる「Googleエディション」が発表されている。その背景にあるのが、「版権レジストリ」と呼ばれる第三者組織だ。
2010年6月には三省懇談会(総務省と文部科学省、経済産業省と有識者・業界関係者による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」)が書籍版JASRACの必要性をまとめた。
JASRACという言葉を聞くと、毛嫌いするような反応を示すネットユーザーも少なくない。しかし、インターネットに放流される本というコンテンツから、クリエイターに収益をきちんと還元するには、それを追跡する仕組みと組織が必要不可欠だ。
書籍の権利を集中管理する仕組みがあってこそ、電子書籍流通の可能性は広がる。現状のJASRACのあり方と、権利の集中管理の必要の有無は切り離して議論すべきだろう。
◆
電子書籍とは、突き詰めればデジタル化によってそれまでの「モノ」を前提としたビジネスモデルからの転換だ。
すでに音楽や映像が直面してきた課題を、本に関わる関係者がいかに乗り越えて新しいモデルを作り上げていくのか、2011年はその正否が問われることになるだろう。
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