クラウドへの期待を超える「BizCITY」のサービス戦略
通信事業者のフルレイヤサービスがクラウドへの不安と期待に応える
2011年02月07日 06時00分更新
クラウドに大きな関心を持つ企業が増えており、実際に導入を検討している企業も多い。しかし、その一方で、セキュリティに対する不安が、導入の障害になっていることも明らかになっている。そこで、こうした不安や疑問を解消してクラウドを効果的に利用するために、ユーザー企業は何をするべきか、またサービス事業者にはどのような取り組みが求められるのかについて、メディア横断型で実施された『クラウド討論会 2011』のモデレーターを務めたアイ・ティ・アールのシニア・アナリストである舘野真人氏とNTTコミュニケーションズの小原英治氏が意見を交換した。(文中、敬称略)
通信事業者の設備とサービスが
セキュリティへの不安を払拭する

NTTコミュニケーションズ ビジネスネットワークサービス事業部 販売推進部長 小原英治氏
舘野●日本でもクラウドへの関心は年々高まっており、実際に導入実績も増加しています。しかし、依然としてクラウドサービスに対して慎重な見方をする向きも少なくありません。その原因として、セキュリティに対する不安を挙げる企業が実に多い。こうした不安を解消するには、サービス事業者の役割が極めて重要ですね。
小原●確かに、そうしたご指摘を多く伺います。クラウドにおけるセキュリティ対策では、“トゥ・ザ・クラウド”と“イン・ザ・クラウド”の二つの観点に大別できます。前者は外部からの不正侵入への対策です。当社では、データセンターへのアクセスに、セキュアなVPNを利用することで解決しています。その際、企業内で利用しているプライベートIPアドレスのままアクセスできますので、オンプレミス環境と同じ感覚でシームレスに利用できる利点もあります。
後者のデータセンター内部のセキュリティにつきましては、通信事業者である当社ならではの対策が施されています。まず、データセンターの建物は、NTTの通信設備を収容していた局舎を活用しており、社会のライフラインを守るための高い堅牢性が確保されています。また、局舎への立ち入りも厳しく制限されているなど、通信事業者にしか実現できない物理的な安全性を実現しています。
今後は、こうした当社の取り組みも強くアピールして、お客さまに安心していただくことが大切だと考えています。
舘野●セキュリティとともにサービスの信頼性・継続性もユーザーにとっては大きな関心事です。特に、基幹業務に必要なデータやシステムにクラウドの導入を検討している企業では、インフラやネットワークを含めたサービスの信頼性が気がかりになるでしょう。
小原●クラウドは、サービス提供のプラットフォームとなるデータセンターから、そこで管理・運用されるサーバーやストレージ、ネットワーク機器などのハードウェア、OSや仮想化ソフト、アプリケーションといったソフトウェア、そしてサービスの利用に欠かせないネットワークまで、多くのレイヤでサービスが構成されます。
ITリソースをサービスとして利用する“As a Service”型のクラウド環境で、止まらないサービスを実現するには、これらレイヤのすべてにおいて信頼性を確保しなければならず、多岐にわたる分野で高度な技術とノウハウが求められます。
舘野●アプリケーション、プラットフォーム、インフラ/ネットワークという三つのレイヤを統合的に提供してほしいというニーズが思いのほか高く、個別レイヤの中では、特にインフラ部分の品質を重視するユーザーが多いようです。通信に関する豊富なノウハウを持ち、ネットワークからサービスまで幅広く提供できる通信事業者への期待は大きいと思います。
小原●当社は、通信サービスの提供において長い歴史があり、比較的新しいインターネットのサービスに関しても、すでに十数年間継続して提供し続けています。
また、高い技術力と豊富な経験を持つ、さまざまな分野の技術者が数多く在籍しています。例えば、ネットワークやサーバーの運用はもちろんのこと、データセンターの建物や電源の専門家などもおり、クラウドを構成するすべてのレイヤをグループで管理できる体制を整えています。
ネットワークとデータセンターは一体のインフラ
フルレイヤでサービス提供できる事業者が有利
舘野●クラウドの登場によって、ネットワーク事業者を選定する基準が変わりつつあるようです。データセンターをはじめ、クラウドサービスの利用を後押しする環境をいかにワンストップで提供できるかが、これからのネットワークサービスに求められることになりそうです。
小原●クラウドでは、ネットワークとデータセンターがサービスのインフラとなります。サーバーのリソースを増強しても、ネットワークの増速に時間がかかる、といった事態を避けるためにも、ネットワークとデータセンターは一体だと考えるべきです。

ITRのシニア・アナリストである舘野真人氏
さらに、サーバーなどのハードウェアプラットフォームサービスとなるIaaS(HaaS)から、アプリケーションの実行環境となるPaaS、さらにはアプリケーションを含めた利用環境となるSaaSまで、企業のさまざまな要望に応えられるサービスを、フルレイヤで提供できる事業者を選ぶと、より効果的にクラウドを導入することができます。
異なる事業者のサービスを組み合わせて導入すると、個別に管理しなければならず、業務とコストに無駄が生じます。また、フルレイヤで導入すれば、サービスレベルを均質化でき、セキュリティや信頼性を確保しやすいという利点もあります。
舘野●当然、企業は既存のシステム資産を保有しており、そうしたオンプレミス型のシステムとクラウドを上手に組み合わせて利用したいという要望もあります。
小原●私もすべてのケースでクラウドをフルレイヤで導入することが最適解であるとは思っておりません。導入の選択肢が、用意されていることも重要です。例えば、サーバーやOSの更改に合わせて、システムやデータの一部をクラウドに移行して、オンプレミスとクラウドをハイブリッドで利用するのも効果的な導入方法です。
また、セキュリティのレベルや重要性に応じて、プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせて利用することも選択肢の一つです。
さらに、サービスのすべてを1社で提供することは不可能ですから、一つのインフラで異なる事業者のサービスを利用したいという要望にも応えられなくてはなりません。
異なるサービスや環境を組み合わせて利用する場合、それを意識することなく、シームレスに利用できるサービスこそが理想だと考えています。
(次ページ、クラウドに最適なネットワークとは クラウドサービスを標準装備したサービス)

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