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あなたの知らないWindows 第44回

「Windows on ARM」が持つ意味と課題は何か?

2011年01月20日 12時00分更新

文● 山本雅史

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元々は複数のプロセッサーに対応していたWindows OS

今回公開されたARM版Windowsは、Windows 7と同じUIをそのまま使っている

今回公開されたARM版Windowsは、Windows 7と同じUIをそのまま使っている。正式なリリース時には、Windows 8と同じく新しいUIになると思われる

 今回の発表は、スマートフォンやタブレット製品での相次ぐ採用で、飛ぶ鳥を落とす勢いのARM版ということで大きな注目を集めている。だがご存じの方も少なくないように、Windows OS自体は複数のCPUアーキテクチャーをサポートしていた歴史がある。

 Windows 3.1やWindows 95などのクライアント向けラインナップは、最初からx86アーキテクチャーのみのサポートだった。しかし、企業向けのサーバー&ワークステーション向けOSとして生まれた「Windows NT」は、開発当初からx86アーキテクチャーだけでなく、PowerPCやMIPS、DEC Alphaなど、複数のCPUアーキテクチャーに対応していた。CPUアーキテクチャーに依存しないWindowsの実現が、Windows NTの重要課題だったためだ。

 ところがWindows 2000がリリースされる頃になると、x86アーキテクチャー以外のプロセッサーを使用したサーバーやワークステーションの出荷がほとんどなくなったり、x86に比べるとアプリケーションが非常に少ない状況にあり、打開の見込みもなかった。そのためWindows 2000以降は、x86アーキテクチャーのみに絞られた経緯がある。

 ただし、現在でもWindows Serverでは、インテルのItaniumアーキテクチャーがサポートされている。Itaniumは大規模なサーバーで利用されているCPUで、例えば東京証券取引所の売買システム「Arrowhead」に採用されている(ただし、OSはWindows ServerではなくRed Hat Linux)。

 また、2011年に正式リリースされる予定の組み込み機器用の「Windows Embedded CE」は、MIPSにARM、ルネサスSH-4、x86など、さまざまなCPUアーキテクチャーをサポートしている。

 このように、Windows OS自体はさまざまなCPUアーキテクチャーに対応している。しかし、コンシューマー用も含むクライアント向けWindowsとしては、ARMプロセッサーがサポートされるのは初めての出来事になる。

注目点は「SoCへの対応」であること
よりコンパクトなWindowsの開発が必要に

別に開かれた記者会見では、Windowsの開発を担当しているスティーブン・シノフスキー上級副社長が、SoCで動くARM版Windowsの説明とデモを行なった

 今回の発表で注目すべきは、次世代のWindows OSが対応するのは、SoCであるという点だ。一般的にSoCは、CPUパワーはそれほどないし、GPUの機能も制限されている。その分、低消費電力化されているため、SoCを前提としたOSと組み合わせれば、長時間のバッテリー駆動が可能な機器を作れる。また、SoCは必要な機能が1チップに収められているため、ハードウェアのコストが安い。SoCでネットブックを作れば、今よりも安くできると期待される。

 ただしSoCに対応すると言っても、現状のWindows OSのままでは大容量のメモリーが必要になるし、HDDなどのストレージも大容量が必要になる。それではx68 CPUを使う既存パソコンに対するメリットが失われてしまうので、SoCでWindows OSを動かすなら、SoCに搭載されている少容量のメモリーやフラッシュメモリーでも動くようにする必要があるだろう。

 本格的にSoCに対応したWindowsを作るには、Windowsをモジュール化して不必要なソフトウェアブロックを取り外し、コンパクトにしなくてはならない。技術的にはすでに下地があるため、次世代のWindows OSなら十分可能であろう(関連記事)。

インテルが開発しているAtom CPUのSoC「Medfield」を使った試作機

これはARMアーキテクチャーではないが、インテルが開発しているAtom CPUのSoC「Medfield」を使った試作機。CPUとGPU、メモリーなどの主要チップは、手に持っているボードにすべて収まっている

 さて、これらの事情を考慮すると、ARM版Windowsは一般的なパソコンではなく、ネットブックなどの低価格ノートをまずターゲットにしているように思える。あるいは、Googleが開発するパソコン向けOS「Chrome OS」への対抗策かもしれない。

 一方で、2010年に登場したiPadによって一気に市場が開かれたタブレットに関しては、いくらARM版Windowsがリリースされたとしても、現状のWindowsが採用しているユーザーインターフェースのままでは普及しないだろう。スマートフォン向けのWindows Phone 7は、ユーザーインターフェースを一新することで、iPhoneやAndroidと同じ土俵で戦えるようになった(販売面ではまだまだだが)。タブレットでも同様で、今までのWindowsとはまったく異なる、新しいユーザーインターフェースが必要になるだろう。

 またARMプロセッサー側にも、今後必要となる改良すべき点が数多くある。今までのARMプロセッサーは、CPUパワーよりも低消費電力の維持がメインテーマになっていた。しかし、パソコンの領域で利用するには、まだまだ性能を向上させなければならない。グラフィックス機能も、DirectX 11をサポートできるGPUを搭載する必要がある。

 ARM版Windowsは、2年後にリリースが予定されている「Windows 8」でサポートされる。提供時期がパソコン用と同じになるかどうかも、現時点ではわからない。まだまだわからないことだらけのARM版Windowsであるが、今後も新しい情報については、随時お届けしていきたい。

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