さすがに当時の技術では、OMAP1510にベースバンドプロセッサーまでは統合できなかった。また逆に、統合してしまうと無線規格の変更に対して柔軟に対応できないという問題もあったので、ベースバンドプロセッサーそのものは外付けとなっている。しかし、それ以外の周辺回路をなるべく統合することで、実装面積や部品コストの削減を狙うというのが、OMAP1510の特徴だった。
実際OMAP1510を使ったシステム例を見ると、カメラやキーパッド/タッチスクリーン、SDメモリー/MMCカードなどのインターフェースを統合しており、もし無線が必要なければ、これだけで全部済んでしまうほどだ。
このOMAP1510は、例えば日本では初期のFOMA製品(F2051/N2051/P2102V)などに採用されたし、携帯電話以外では米PalmのPDA「Tungsten T」に搭載されるなど、かなり広く利用された製品である。
とはいえ、さすがにARM925Tのままでは性能的に厳しいこともあり、CPUをより高速な「ARM926EJ-S」に変更し、動作周波数を204MHzに引き上げたのが後継の「OMAP1610」である。さらに、OMAP1610に追加で2MBのSRAMを搭載したのが「OMAP1620」となる。OMAP1610は、CPUコアがJava VMを高速処理する拡張命令「Jazzile」をサポートしたことにより、Javaの処理がより高速になるなど、いろいろな改善がなされている。
OMAP 1シリーズ最後の製品は、2003年12月に発表された「OMAP1710」である。構造そのものはOMAP1610と大差ないし、動作周波数の向上もわずかだが、130nmプロセスに代えて90nmプロセスを使うことで、消費電力をぐんと下げた製品となった。しかも周辺回路まで含めてOMAP1610と互換性が保たれており、機器メーカーがスムーズに移行できるように配慮されていた。
OMAP 2
第2世代である「OMAP 2」シリーズは、2004年2月に発表された。製造プロセスは引き続き90nmを使うが、CPUコアを「ARM11」に入れ替えたほか、大きな特徴として、内蔵2D/3D GPUに英Imaginationの「PowerVR MBX」を、また画像/動画再生支援として「IVA」(Imaging Video Accelerator)を追加している。
上図のように周辺回路も増強されており、これまでの要素に加えて、無線LANやGPSのインターフェースが追加されている。さらに、外部に電源制御IC(TWL92230)を組み合わせることを前提とした構成となっており、積極的に省電力化を図っているのが特徴だ。
GPUコアはともかくとして、IVAについてはTIの見解が変わったのが面白いところだ。TIはOMAP 1の世代では、各種アクセラレーターの搭載にはやや否定的で、「それよりもDSPコアを使った方が柔軟性が保てる」という見解だった。ところがプロセス微細化により、アクセラレーターを搭載してもダイサイズへの影響が相対的に減った。また、標準的な動画コーデックへの対応であれば、(CPUでやらせるよりマシとは言え)DSPでやるよりも専用アクセラレーターを使うほうが当然省電力化できる。そんなわけで、この世代から積極的にアクセラレーターを使い始めるようになった。
これに続き登場したのが「OMAP2430」であるが、こちらはDSPをOMAP 1世代から使っていたC55xから、次世代製品である「C64x」に交換したのが最大の特徴である。登場は2005年9月とやや間が空いたが、このOMAP2430も、NTTドコモの「N902i」シリーズに搭載されるなど、幅広く利用された。
ちなみに、OMAP2430では内蔵GPUがPowerVR MBXからPowerVR MBX Liteに変更されている。これはC55xからC64xへの変更で若干消費電力が増えたため、トータルでの消費電力を一定に抑えるために、多少GPU性能を犠牲にしたのではないかと思われる。このOMAP2430からGPUを抜いたものが「OMAP2431」で、GPUが必要とされない機種(例えばASUSTeKの携帯電話「M930」)などに採用されている。
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