ARM編第3回となる今回と次回では、実際の製品を解説したい。まず今回は、ARMを搭載した携帯電話向けSoCの代表例として、米テキサス・インスツルメンツ(TI)の「OMAP」系列を少し細かくご紹介したい。
OMAP(Open Multimedia Application Platform)とは、TIのSoC製品ラインナップの中でも、特に携帯電話などに向けた構成のものだ。メインストリーム向けに「OMAP 1、2、3、4」がラインナップされているほか、これに含まれない別シリーズもいくつか存在する。
TIはARM系最新の「Cortex-A15」コアの最初のライセンシー3社でもあり(ほかの2社はサムスンとST Ericsson、関連リンク)、同社はこのCortex-A15コアを、次世代のOMAPに搭載することをリリースの中で明らかにしている。おそらくは「OMAP 5」シリーズとして登場することになるだろう。
OMAP 1
OMAPシリーズの中でも、メインストリーム系の最初の製品が「OMAP1510」である。製品出荷は2003年であるが、実際はその前からサンプルの形で機器ベンダーに出荷開始されていた、というのはよくある話だ。その中身であるが、下の構成図で主要な構造が示されている。
さすがに携帯電話ともなると、内蔵フラッシュメモリーやSRAMだけですべてのプログラムを搭載するのは不可能だ。そのため外部にフラッシュメモリーやSDRAMなどを接続する方式を取っており、内蔵するメモリーは、DSPやARM9コアで処理するリアルタイム性の高いコードのみを格納する、1.5MBのI-SRAMのみとされる。
OMAP1510には、「ARM925」コアと並んで「TMS320C55x」DSPコアが搭載されているが、以下のような役割分担がなされている。
- CPU 非リアルタイム系処理、およびアプリケーションプロセッサー
- DSP リアルタイム系処理、マルチメディア系処理など
この当時の携帯電話の場合、2.5G/3Gの通信プロトコルそのものを制御する、通信の下位レイヤの処理(ベースバンド処理)のためにプロセッサーが必要であった。そこで「ARM7/ARM9コアのCPU」+「アナログ半導体回路」で構成された、「ベースバンドプロセッサー」というものを搭載していた。
初期の携帯電話は、このベースバンドプロセッサーに画面表示などの処理も兼用させていた。だが信号処理が次第に複雑になってくると、信号処理自体が占める負荷が高くなり、ユーザーインターフェースに割けるCPUの割合が減ってきた。その一方でユーザーインターフェース側も複雑化・高度化するようになり、特にJavaの実装が始まるようになると、ベースバンドプロセッサーで両方を兼用するのは非常に困難になった。
こうしたトレンドを受けて、ベースバンドとアプリケーションのそれぞれに、別のCPUを搭載するデュアルプロセッサー構成が取られるようになってきた。ところがこの方式では、実装面積も消費電力も増える。実装面積が増大すると、必然的にバッテリーの小型化が求められ、その一方で消費電力が大幅に増えると、結果として待ち受け時間や通話時間が減少してしまう。
こうした問題に対するTIの回答が、アプリケーションプロセッサーにDSPコアを組み合わせることで、消費電力を抑えつつ性能を引き上げるという方法であった。搭載するコアは1MIPS/MHzのARM925で、これは発表当時としてもそれほど処理速度が高い部類には入らない(この世代のARMロードマップについては前々回を参照)。一応TIが内部的に改良を施したコアなので、ARMの提供するARM925よりも、やや性能は改善している。
これにDSPコアを組み合わせることで、音声フィルタリングや簡単な画像処理、ある種のストリーミング処理などをCPUを使わずに実現できたため、当時としては高い処理性能/消費電力比を誇るものだった。
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