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「Google、H.264サポート中止」の背景を探る

2011年01月13日 21時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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WebMは普及するのか?

 では実際、WebMは本当に普及するのだろうか? これは非常に返答に窮する質問だが、五分五分といったところだと考えられる。GoogleはChromeでのH.264サポート中止を発表した文章で、WebMやOgg Theoraのサポート強化ならびに、将来的により高品質な動画サポートに注力するためとコメントしている。

 ただし、同件に付けられたユーザーからのコメントは、「嘘でしょ?」、「エイプリルフールにはまだ早いぞ」、「これだけH.264が普及しているのに愚かな判断だ」といったものが多数散見され、Googleの判断はかなり強引だとみられていることが分かる。

 それだけH.264ベースの動画が世間に普及しており、家電やビデオカメラなどの装置での記録方式が軒並みH.264(MPEG-4)ベースであることを考えれば、それだけGoogleがWebMに対して本気で、MPEG LAなどの権利者への対抗に重点を置いていることが分かる。

 勝算はあるのだろうか? ひとつGoogleにとって有利なことは、YouTubeの存在だ。現状でWeb上に存在する動画のほとんどはFlashベースの動画コンテンツだといわれており、その多くを最大の動画サイトであるYouTubeが占めていることは想像に難くない。

 一時期、H.264のサポートやHTML5ブラウザーへの誘導を推進して業界トレンドを引っぱったのはYouTubeの功績のひとつであり、最近ではInternet Explorer 6のサポート廃止もその一環だろう。Flashの使えないiPadやiPhoneなどでの動画再生もあるため、急にH.264サポートを中止するのは難しいと思うが、WebMに対する何らかの誘導措置をとることは可能だと思われる。

 またAndroidデバイスの普及スピードは目を見張るものがあり、(H.264はサポートしないが)WebMをサポートしたデバイスが多数出回ることで、将来的に有利な状況を築ける可能性もある。これはChrome OSでも同様だろう。

VP8の懸案事項

 懸案事項としては、すでに多くの関係者が指摘するように、VP8のコーデック自体がMPEG LAなどの保持する特許を侵害している可能性だ。VP8がWebMとしてオープンソース化された際、それまでプロプライエタリなソフトウェアとしてクローズドだった仕様がすべて明らかとなり、多くの開発者が解析を始めた。

 中でも「x264」(H.264エンコードプログラム)の主要開発メンバーの1人であるJason Garrett-Glaser氏のBlogエントリ(「The first in-depth technical analysis of VP8」)では、VP8のH.264との類似性が指摘されている。その内容は、基本的な動作はほぼ同じもので、どちらかといえば劣化コピーに近いものだというのだ。

Jason Garrett-Glaser氏のBlogエントリ(「The first in-depth technical analysis of VP8」)

 Garrett-Glaser氏の論評についてはさまざまな意見が存在するが、特に権利者側ではこの問題に注意を払っており、GoogleのWebMでの出方次第では特許侵害訴訟を起こされる可能性がある。もしWebMが標準として一般に認知された場合、権利者側の特許請求権を無効にされてしまう可能性があるからだ。

後継規格の策定で、WebMとH.264が陳腐化の可能性も

 だが、これはオープンソース陣営対大手メーカーら権利者連合といった単純な構図では済まない。技術自体は常に進化しており、Ogg Theoraが過去の技術として取り扱われなかったように、WebMとH.264の紛争が激化するとみられる数年後には両技術ともに陳腐化している可能性があるからだ。

 H.264の後継規格とされるHEVC(High Efficiency Video Coding)もすでに策定が進んでおり、これはWebM側の進化にも同様なことがいえるだろう。むしろ最新技術を含めたトレンドをうまくキャッチアップし、ベンダー間の諍いをユーザー側の不利益として持ち込まないよう努力してほしいというのが1ユーザーとしての願いだ。


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