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2010年を振り返り、2011年を占う

TECH.ASCII.jpが見た2010年IT業界の乱【後編】

2010年12月28日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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クラウドに始まり、クラウドに終わった感のある2010年。リーマンショックからIT投資も緩やかに戻り、企業の情報収集意欲も盛んになりつつあるのがさまざまな場面で感じられた。後編も2011年の選択を確実にするためのいくつかのキーワードを「乱」という形で解説していく。

統合はデータセンターで起こっている~コンバージドの乱~

 コンバージド(Converged)とは融合を表わすが、ここではLANとSANとの融合を指す用語と考えてよい。具体的にはFC(Fibre Channel)とEthernetの融合を意味しており、その実装プロトコルであるFCoE(FC over Ethernet)/DCB(Data Center Bridging)が戦いの火種となっている。

 ご存じEthernetはLANにおける標準のプロトコルであり、安価でオープンという特徴から、他のいくつかの規格を押しのけ、1990年代に標準規格の地位についた。一方SANの世界には、ギガビットEthernetの元にもなったFCが歴然と存在している。FCは上位のプロトコルスタックまで規格化されており、セキュリティや低遅延などの特徴を持つ。この2つのプロトコルが併存するデータセンターの現場において、両者を融合しようという流れが起こるのは当然の流れといえる。

 実は過去にもこうした試みは進められてきた。FCをIP上に実装するFC over IPやストレージ制御を行なうSCSIをIP上に実装したiSCSIなどが良い例であろう。そして、LANとSANのこうした統合化を実現するプロトコルとして現在大きな注目を集めているのが、FCをEthernet上に載せたFCoEと拡張EthernetのDCBというわけだ。

 このFCoE/DCBを巡る覇権を争うプレイヤーがシスコとブロケードだ。ご存じのとおり、シスコはCatalystとは異なるデータセンタースイッチとして「Nexusシリーズ」を展開している。これに対して2009年にファウンドリーネットワークスを買収したブロケードも、長年手掛けてきたSANスイッチの実績を活かしたFCoEスイッチを投入。データセンターを舞台に両者が争っている。

 われわれの媒体でもあえて記事タイトルに製品や社名を入れて、その戦いをあおっているところもあるが、コモディティ化の進んだネットワーク分野では、すでにこうした争い自体がもはや少なくなっている。積年の悲願であったLANとSANの融合を実現すべく、両者が切磋琢磨するのであれば、業界にとってもよいことだ。願わくば、もう1~2社あたり、コモディティを売りにするプレイヤーが欲しいところだが。

 番外編(失礼!)としてはCNA(Converged Network Adaptor)を巡るエミュレックスとQLogicの戦いもある。今後、サーバー側での実装もますます増えそうなので、こちらにも要注意だ。

アプリケーション可視化は必要か?~次世代ファイアウォールの乱~

 ゲートウェイセキュリティの分野では、やはり「次世代ファイアウォール」を謳う製品の投入が目立った。次世代ファイアウォールとは、ポートやアドレスに依存せず、アプリケーションの可視化や制御を行なえるファイアウォール。また、アプリケーションだけではなく、ユーザーやコンテンツを識別することで、インターネットアクセスにおいてきめ細かなセキュリティポリシーを適用することができる。

 次世代ファイアウォールの概念は、新興のパロアルトネットワークスが提唱したもので、HTTPアプリケーションが多数を占める昨今、ポートやアドレスベースのファイアウォールがすでに役に立たなくなっていることを同社は訴え続けた。そして、同社のPAシリーズでは既存のファイアウォールやIPS、UTMの延長ではなく、アプリケーションを可視化できる次世代ファイアウォールをイチから実装した。ファイアウォール自体を否定するこのメッセージは、業界内に大きなインパクトを与えた。

 そして2010年、これに呼応するかのように、マカフィーやチェック・ポイント、ソニックウォール、ウォッチガードなどが次世代ファイアウォールの提供を発表している。各社とも対応するアプリケーションの数を誇示し、きめ細かい制御をアピールし、GUIの操作性や見える化効果を強調している。

 各社の参入により、今後次世代ファイアウォールは「次世代」ではない、L7ファイアウォールという汎用機能になっていく。従来、次世代ファイアウォールを謳う製品はエンタープライズに焦点を絞って提供されていたが、各社の参入により製品は低価格化し、エントリーユーザーでも導入可能になるだろう。そして、今後になるのは詳細な制御機能を活かすための高いレベルのコンサルティングやサービスである。2011年は新しい形のマネージドサービスが起こってくると考えられる。

どこまで効率的に冷やせるか?~省エネデータセンターの乱~

 受験勉強の偏差値と同じように、人間は数値化されると、争ってしまうものらしい。データセンターの電力効率を示すPUE(Power Usage Effectiveness)という概念が導入されて以降、各データセンター事業者はPUEの低減に本腰を入れている。特に以前から省エネに過敏な日本では、エコじゃないことを数値で表されるのはやはり面白くないようだ。また、低廉なコストが求められるクラウドのサービス提供においては、電力コストのカットは大きな武器になる。

 こうしたデータセンターのPUE改善の動きは、グリーンITの概念が全盛期だった2~3年前からあったが、既存のデータセンターを一気に省エネ化しようというのは実はけっこう難しい。確かにサーバーやストレージのCPUは低消費電力化され、効率を重んじた電源も採用されるようになってきた。しかし、いくら省エネなサーバーやストレージを導入しようとも、実際に電気を食っているのは冷却機器だったりする。つまり、データセンタラックの構造自体をエコロジー対応にしなければならないのだ。

 これに対しては、効率的な冷却を可能にするための製品がいくつも現れた。APCの「InRow OA+RDU」のように既設のラックの上に設置できる局所冷却製品などは、その最たるものだ。

 また、省エネ対応のデータセンター構築の動きも加速した。日本では、IT機器の近くに液体を置くことへの抵抗があるからか、水冷の積極的な導入はあまり多くない。代わりに注目されるのが、自然気候を利用した外気冷却である。こうした外気冷却を取り入れる省エネデータセンターの代表例が、IIJが島根県の松江に建設中のモジュラー型データセンター、そしてさくらインターネットが北海道石狩に建設中の外気冷却データセンターだ。

 さらにPUEの生みの親であるThe Green Girdでは新たなデータセンター指標として、CUE(Carbon Usage Effectiveness)とWUE(Water Usage Effectiveness)を発表している。今後も、こうしたエコの流れは加速していくだろう。

 なおASCII.technologiesの2月号では、「2011年のITはこうなる」と題した特集1でクラウド、Windows、Linux、CPU、ストレージなど幅広い分野でディープな2011年技術動向予想を繰り広げている。あわせてお読みいただきたい。

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