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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第19回

AiR×講談社×キングレコードの新電子雑誌

逆を目指す講談社『BOX-AiR』、掲載作すべてをアニメ化検討!?

2010年12月29日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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OADならば年に2作品は映像化できる

―― 先ほどの選考会で、アニメ化検討作品が選ばれたわけですが、著作権ついての扱いはどのようになるのでしょうか?

講談社 山本 「弊社の通常の出版契約をまず締結させていただき、その上でアニメ化については、原作から発生する諸権利を、著作権管理委託契約を結んだ上で、著者さんと相談しながら活用・行使していくことになります。アニメ化はその一環ですね」

キングレコード 中西 「半年に1回、検討した諸作品の中からアニメ化する作品を選びたいと考えています。募集作品が一定量集まってくるタイミングや、応募者の書くスピード、モチベーションを考えると、そのくらいのスパンが良いかなと。

 もちろん、一定のレベルに達していなければ、残念ながら該当作無し、ということもあり得るとは思いますが、OADであれば年間2作品くらいは無理なく映像化できます」

―― 選考会では、中西さんは“映像化への向き不向き”について、BOX編集部の方々と意見を戦わせる場面がありました。これまでアニメ化は、すでにできあがった作品をどう料理するか、という段階からスタートすることが多かったと思うのですが、勝手の違いを感じたりはしていますか?

キングレコード 中西 「そうですね。これまではほぼ100%、『後からどうするか?』という世界でした(笑)。今回はまったくゼロからの検討なので、わたしの役割は“アニメになったときに、より成功するもの・世の中に受け入れられるもの”という視点を提示することだと思っています」

―― 小説は主人公が男性だけど、付属するアニメDVDでは女性になっている、なんてことも?

キングレコード 中西 「あり得ますね! そういった楽しみ方も提供できると思います。個人的には“映像化しづらいもの”に取り組むのが大好きなので。まさに現在公開中の『マルドゥック・スクランブル』もそうですが、『えっ!? それアニメにできるの?』という作品が寄せられることにも実は期待しているんですよ(笑)」

―― 放送コードが存在するテレビアニメと異なり、表現の幅も広がりそうですね。

キングレコード 中西 「はい。ただまったくルールがないというわけではなく、商品として考えたときにわたしたちは“一般性”を忘れてはならないと考えています」

芥川賞と直木賞を同時に選ぶのが講談社BOX流

尖りと普遍性、どちらも重視する講談社BOXの気質が感じられた新人賞選考会だった

―― 選考会を取材しているときに、なぜか芥川賞と直木賞を同時に選考しているような雰囲気を感じました。つまり、講談社BOXらしい尖った作品と、一般性が高くて受け入れられる層が広い作品が1つずつ選ばれる、そんなプロセスを経たように感じます。

講談社 山本 「個人的なBOX-AiRの編集テーマに“せめぎあい”というフレーズを今回据えました。アニメと小説であったり、萌えと中二病であったり、美少女とイケメンであったり、なにかしら対極に位置するものを2つの柱として雑誌を構成したいと思います。まさに“雑”とすることが大切ですね」

―― これはちょっと意地悪な質問になってしまうかもしれませんが、メディアに電子雑誌を選択した場合、特にBOX-AiRはデバイスがiPad/iPhoneに限定されます。

 雑誌の購入者だけが原作に触れるのですから、アニメ化しても週刊漫画誌の連載作品ほどの膨大な顧客数は見込めない、というのが実際のところだと思いますがいかがでしょうか?

キングレコード 中西 「確かに現状分析としてはそうなってくると思います。ただ今回の取り組みは、今現在というよりも、将来を見越してのチャレンジであるという部分が大きいのです。

 そこに対して、我々のようなプレイヤーがきちんと一歩を踏み出しておくということが、これから作品を生み出していく若い作家さんの力にもなると信じています。

 ……わたしも実際やっていて面白いし、その夢に賭ける、ということで良いのではないでしょうか(笑)」

力がある作品は、最初からアニメにしてしまえ!

―― ライトノベル作品のアニメ化は通常、本の反応(売上げ)を見て、そこから企画を立てるので、ある程度数が読みやすいという面があります。BOX-AiRの場合、上記のような進め方は難しいと思うのですが。

講談社 山本 「例えば“シリーズ累計100万部突破!を受けてアニメ化”というのが通例ですよね。わたしたちはその真逆を行こうと思っています。

 始めからアニメ化を見据えて、お話が世に出るときにはすでに映像化もされている。この手法がどこまで通用するのか、(編集担当者の目利きや力量が)試されている部分はありますね」

AiR 堀田 「もちろんすべての作品が即アニメ化というわけではないのですが、しかし基本的に新人賞受賞作はすべて掲載し、そして連載して単行本分まとまった作品は紙でも出版されます。

 受賞作品はみな掲載というBOX-AiRの姿勢は、才能というものに対する取り組み方として、ずいぶんと特徴的だと思っています。

 あと意外と見過ごされがちですが、投稿を目指す人にとって、単行本を一冊分書き上げるというのは、結構たいへんな作業だと思うんですよ。その点、BOX-AIRなら2話分で投稿できます。そして連載の場があることで編集担当と一緒に一定のペースで一冊分のボリュームに近づいていくという面も面白いと思います。

 残念ながら現代では、紙でこうした企画を実現するのは難しい。電子だからやれる取り組みだと思っています」

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