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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第19回

AiR×講談社×キングレコードの新電子雑誌

逆を目指す講談社『BOX-AiR』、掲載作すべてをアニメ化検討!?

2010年12月29日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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第9回で取り上げた電子雑誌『AiR』が講談社及びキングレコードと提携。掲載作品のアニメ化を毎月検討するという前代未聞の新電子雑誌『BOX-AiR』が誕生した

 当連載の第9回で、リクープ(投資回収)が見えてきた電子書籍の1つの事例として電子雑誌「AiR」を取り上げた。

 7月に行なったインタビューの中で、発行会社代表の堀田純司氏は、「AiRは雑誌に近い形態を取ることで、幅広い読者の獲得を狙うだけでなく、大物作家の作品の隣にデビューしたての新人の作品が並ぶような場になることも目指していきたい」と語っていた。

 そして10月15日、AiRは講談社、キングレコードと提携を結んだ。その内容は、西尾維新や奈須きのこなど人気作家を擁する講談社BOX編集部と共同でiPhone/iPad専用の電子雑誌『BOX-AiR』を創刊、2010年内に零号、2011年春に創刊号を発売するというもの。

 業界最大手と提携しての電子雑誌創刊だけでも驚きだが、最も衝撃的だったのは、積極的に新人作家を発掘し、掲載したすべての作品に対して毎月アニメ化を検討するという発表だ。

 これは、当連載で取り上げてきた“電子書籍”と“アニメ”がまさに融合する取り組みに見える。さっそく仕掛け人たちに話を聞くことにしよう。

新人発掘からアニメ化までを一気呵成に

―― AiRが新人発掘という方向性は予想していたのですが、『化物語』などを手がける講談社BOXと組むことには驚かされました。まずは経緯から聞かせてください。

まずは電子雑誌「BOX-AiR」誕生の経緯を、講談社 文芸局 講談社BOX BOX-AiR編集長の山本氏に伺った

講談社 山本氏 「2010年11月、講談社BOXに新レーベル『POWER BOX』がオープンしました。

 この新しいレーベルから、講談社BOX新人賞Powersを受賞した新人を単行本デビューさせていくことになっていたのですが、1つのゴールである書籍化と同時にアニメ化もできないかな? とふと思い立ったのがきっかけです。

 そこで、弊社映像部の松下(講談社 ライツ事業局 映像製作部 松下卓也氏)にキングレコードの中西豪さんを紹介してもらいました。

 しかし、単行本1冊分まで話ができあがるのを待っていては、時間も手間もかかります。もっとスピーディーに、それこそ1話ずつアニメ化を検討できないかなと。

 そのタイミングで先輩編集の堤から、以前弊社の『モーニング』で編集をやっていた堀田純司さんが『AiR』創刊で話題になっていると聞いて、電子書籍の新しい可能性を感じ、お声がけをしたのです」

作家、『AiR』編集人の堀田純司氏。ベストセラー『生協の白石さん』などを手がけた編集者としても有名

『AiR』編集人 堀田純司氏 「『AiR』を紹介したNHKの番組を堤さんがたまたま見ていて、すぐに電話が掛かってきました(笑)。そこでお話を聞いて、『電子雑誌はその案に向いていますよ』とお返事したものです。

 講談社さんにしても、スターチャイルドさんにしても、“新人発掘”というのは、いつだって重要な取り組みです。そして、新しい才能とは、(単行本やアニメなどの)メディアに載って人に見られるることで伸びていきます。

 しかし一方で、(昨今の出版・アニメ不況もあり)異才の作品をどんどん単行本やテレビアニメで発表する場が小さくなってきている。だったら、電子雑誌を作ることで、新たな発表の場が生まれるかもしれない、と思いました」

―― そういった出版社の新人発掘は、例えば講談社であれば『群像』や『小説現代』といった文芸誌が担ってきましたよね。その機能は、現状どうなっているのですか?

講談社 山本 「講談社BOXの場合、『パンドラ』という紙の雑誌がそれにあたるのですが、ヒット作や派生単行本を生み出していかねばならないという雑誌の機能を十分にはたせていなかったこともあり、現在はお休みしています。BOX-AiRでは、その反省も活かして展開したいと思っています」

―― 堀田さんを目の前にして言うのもなんですが、講談社が自前で電子雑誌を創刊する選択肢はなかったのでしょうか? 講談社の場合、携帯電話への漫画配信でボイジャーとの関係も深いとお見受けします。そちらと組んで……という話があってもおかしくなかったのでは?

今回はインタビュー前に、創刊号に掲載する“BOX-AiR新人賞”の選考会も見学させていただいた。作品の内容はもちろんだが、作家の卵の現状や将来性も勘案してのやり取りが2時間以上続いた

読み物としての面白さだけでなく、講談社BOXの諸作品同様に尖っているか、映像化が可能かどうかも吟味される

講談社 山本 「社内デジタル局勤務の同期に相談したところ、当時講談社ではまだ目指すべき月刊ペースの雑誌刊行は難しそうでした。なので堀田さんと組もうと考えた時点で方向性が一本見えてきた……なんといっても、AiRを数日で作ったという堀田さんの実績がありましたから!」

AiR 堀田 「それは嬉しい話ですね。まあ過大評価だったわけですが(笑)。『AiR』は、元々“聞かれたらなんでも答える”というオープンな姿勢を標榜していましたし。実際、『AiR』を出して感じたことはBOX編集部の方々に、NDAの関係で公表できないことを除いて隠さずお伝えしました」

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