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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第132回

無線の「破壊的イノベーション」がネットワークの構造を変える

2010年12月22日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ISDNと地デジはなぜ失敗したのか

 ソフトバンクがテレビCMまで打って大騒ぎした「光の道」論争は、結果的にはNTTに対する「機能分離」などの規制強化に終わりそうだ。総務省は、光回線を「2015年までに半額」にするようNTTに要請するという。世界の投資家から資金を調達している公開企業の企業価値を毀損する規制を、筆頭株主である政府が行なうのは驚くべきことだ。

 光ファイバーは全国90%に敷設されているのに、30%しか使われていない。NTTグループ連結の営業利益の70%以上はNTTドコモが上げており、NTT東西は実質的には赤字だ。他方、ソフトバンクの端末には「つながらない」という苦情が殺到している。通信産業は急速に有線から無線にシフトしており、足りないのは光ファイバーではなく無線の周波数なのだ。

 こういう時代遅れの規制をみると、1990年代後半、インターネットが急速に普及していたころを思い出す。当時、私が研究会で「電話網(PSTN)の次に来るのはインターネット(IP)だからISDNに投資するのは無駄だ」と言うと、NTTの幹部は色をなして怒り、「IPは他人のネットワークに頼って通信する無責任なプロトコルで、あんなものは通信じゃない」と反論した。

 そのころNTTが開発していたのは、ATM(非同期転送モード)と呼ばれる最新鋭の電話交換機で、NTTが世界で最高水準の技術を持っていた。幹部は「通信ネットワークは、音声の電話からデータと音声を統合したISDNに進化し、次に電気信号を光に置き換えて送るB-ISDN(広帯域ISDN)に進化する。信号はすべてATMで交換されるので、ATM交換機でIPのパケットを送ることもでき、インターネットはATMで動くアプリケーションの一つになる」と述べた。

 1998年に地上デジタル放送が決まったとき、私は日本経済新聞に「『情報家電』で産業復活を」という論文を書き、これからのネットワークはすべてIPになると論じた。NHKの企画総務室にも呼ばれて、「IPとつながらない地デジは失敗する。デジタル化はネット配信でやるべきだ」と助言したが、理解してもらえなかった。

 その後もNTTはISDNを全国に配備して1兆円以上を費やし、テレビ局は地デジに1兆円以上を費やした。その結果、ISDNの契約数は今では500万件を切ってNTTのお荷物となり、地デジはテレビ局の経営を圧迫している。地デジの正式名称がISDB(統合デジタル放送網)だというのは、皮肉なものだ。

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