その2:「ファンが求めるガンダムらしさ」との対話
機動戦士ガンダム00と、2つの「対話」 【後編】
2010年12月18日 12時00分更新
多様な価値観を受け入れるのが監督の仕事
―― いろんな視点というのは、「ダブルオー」でも意識されていますか。
水島 そうですね。今作も劇場版ということで、TVシリーズを見ていなかった人でも楽しめるよう、シンプルなパニック映画としても楽しめる形に落とし込みました。
あとは、スタッフのやりたいことをできるだけ入れるようにしています。僕とは感性や考え方が真逆の人、反対意見もすごく貴重だと思うので。監督というのはフィルムに一番自分の意見を反映できるポジションではあるんですが、もしも判断基準が自分の中にしかないと、つまらないフィルムになっちゃうと思うんです。
最終判断をするのは僕だけど、「面白い」の基準や価値観はスタッフひとりひとりで違うから、なるべくたくさんの視点を知っている方が、より広く人に届くものが作れると思います。
スタッフという、別の頭脳から来る意見があるから面白くなるんだろうなと。興味深いのは、作品の方向性をあまりにきっちりひとつの軸で固めると、フィルムにするときに予定調和になってしまうんですね。実は、作品というのは多少の矛盾とか違和感が残ったほうが面白いと感じることもあります。解釈の幅が広がるから。
(c) 創通・サンライズ・毎日放送
―― なるほど。矛盾や違和感もフィルムを構成する要素のひとつですか。
水島 そう思いますね。……実は、僕に映画の見方を教えてくれた友人の話にはオチがあって。彼とは今でも親しくしているんですが、劇場版「ダブルオー」も見に行ってくれて、感想をもらったんですよ。
それを見ると、「エルスがかわいそうになりました」と書いてある。
彼はSF映画が大好きで、基本的に「宇宙人」というのは悪いやつで、宇宙を征服したい侵略者であると思っているわけです。でも水島のことだから、きっとそういう宇宙人は描かないだろうと。だからエルスが侵略者ではなかったという映画の締めくくり方も、オチとしては正しいと思うから納得すると。
それなのに「見ていてエルスが同情すべき相手だったらば、さみしくもあり」と書いてあって、爆笑しました。自分がこうなったらいいなと思っているものと、作っている側の制作意図の違いをちゃんと理解できる、そんな人間をもってしても、「俺の考える宇宙人は違う!」ですよ(笑)。
人それぞれの価値観の違いというのは本当に面白いと思うし、ダブルオーで、違った価値観の人たちと「対話」ができたのなら、僕としてはすごくうれしいですね。
(c) 創通・サンライズ・毎日放送
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
DVD&BD発売情報
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