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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第41回

1万人が見た、CD全曲録音――USTレコーディングの挑戦

2010年12月11日 12時00分更新

文● 四本淑三

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「音質」の良さより「音楽」の良さを

―― つまり中崎さんは佐久間さんのモニターなんだ。

佐久間 僕は「片耳」と呼んでるけど。それとエンジニアとプロデューサーでは、聴き方が変わっちゃうんだよね。音のことで忙しくなりすぎちゃって、音楽全体のことが手薄になっちゃう。だから録りの時は彼女にお願いして、ミックスの時は片耳になってもらって、みたいな感じで。

―― その片耳として中崎さんを起用した理由は何ですか?

佐久間 エンジニアって日本では技術職でしょ。でも僕はオーディオ的な音の良さよりも、音楽的な音の良さを大事にしたい。すると技術職としてやってきたエンジニアとは、音楽的なところで話がうまく通じない。もちろん僕が全部説明できれば、それをやってくれるだけの技量はある。でも、それだったら自分でやるわという話になっちゃう。

―― よく聞くエンジニアとアーティストが上手くいかないという話ですよね。

佐久間 そうそう。古くは、なぜ僕がBOφWYをベルリンに連れて行ってレコーディングしたか、みたいな話で。

「僕はオーディオ的な音の良さよりも、音楽的な音の良さを大事にしたい。すると技術職としてやってきたエンジニアとは、音楽的なところで話がうまく通じない」(佐久間さん)

―― ああ、あれはそういう理由だったんですか。

佐久間 そういう意味では彼女は若くて音楽的で、信頼して任せられる。変な話、大御所に頼めば、こんな駆け出しよりも、もっといい音で録れるのかもしれない。でもそんな年季がないぶん、自由さを持っていて、丁度僕が初めて会った頃のマイケル・ツィマリング(MySpace)の感覚とすごく似た感じ。そのアバウトさと大胆さがね。

マイケル・ツィマリング : Michael Zimmerling。ドイツ人のレコーディングエンジニア。80年代半ば以降、日本のバンドサウンドが一気に欧米的な質感に変わったのは、彼の仕事によるところが大きい。BOφWYのベルリンレコーディングの後、佐久間正英と小野誠彦が共同で設立したv.f.v. studioに所属。国内で手がけた仕事は、ジュディー・アンド・マリー、ストリート・スライダーズ、ブランキー・ジェット・シティ、エレファントカシマシ、GLAYなど

―― マイケルと比べられるなんてすごいじゃないですか!

佐久間 そのBOφWYのレコーディングの時にエンジニアだったマイケルは、当時24歳だった。小野誠彦も24歳でしょ。彼女もいま同じ年齢だから。

―― そういう系譜の中にいるんですよ、どうしますか中崎さん!

中崎 こ、怖いー!

佐久間 なにしろ小野誠彦にマイケル・ツィマリングだからね。

歴代の大物エンジニア、小野誠彦、マイケル・ツィマリングらと並べられた中崎さん

―― さて、そんな佐久間さんに気に入られた理由は、ご自身では何だと思いますか?

中崎 ……いや、別に。

佐久間 ははは。

中崎 うーん。唯一、こうかなと思うのは、自分でやりたいようにやってるからでしょうね。アシスタントから入ると、いろんなセオリーを叩き込まれて、それを忠実に守らないといけないんですが。

佐久間 エンジニアには流派みたいのがあるんだよね、きっと。それで師匠が好きなものになっちゃう。

中崎 だから自由がないというか。自分でこうしたほうがいいというアイデアがあっても言えない状況とか。すごく息苦しい環境があったり。でも一旦その立場を離れると、自由にものが言えて。「あー、佐久間さん、そこはこうした方がいいんじゃないですかー?」とか。

―― それが言えるって凄いことだけど、変に業界ズレしていないところがいいんですね。エンジニア的にも。

佐久間 実際にレコーディングをやっていて「ここ、こうじゃない?」って言われたときに、なるほどと納得できたりするような、それでツーカーな関係ができる。出てきた音に対して、直感的にどう対応するかという部分。そこがマイケルと似ている感じがするね。

中崎 このスタジオに入ったばかりの頃に、GLAYのために打ち込みで作った曲を「どうかな?」って聞かれたんです。それで僭越ながら言わせていただきますと、という感じで「これは邪魔ですね、ここは要らないですね」と。それで後々、「キミの言っていたことは正しかったよ」って言って頂いたんですけど。TAKUROさんも同じことを言っていたよって。

(次のページに続く)

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