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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第131回

グーグルとヤフーの提携はネットビジネスの一合目

2010年12月08日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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イノベーションによるプラットフォーム競争を

 もちろん、プラットフォーム競争が困難な場合もある。たとえば電力線や鉄道網は、複数の企業が競争で敷設することは社会的な浪費になるので、1つの地域の中では1社が独占的に営業し、それを政府や自治体が規制する「自然独占」産業である。しかしウェブには国境も業界の境界もなく、技術は激しく変化している。今まで圧倒的な優位にあると思われていたグーグルも、アクセス数ではFacebookに抜かれた。ソーシャルメディアでは、グーグルは失敗に次ぐ失敗を重ねている。

 他方これから既存メディアが没落することは確実だ。新聞社やテレビ局がなくなることは大した問題ではないが、ジャーナリストが失業して質の高い情報が得られなくなるのは消費者にとって困る。またメディア産業が成り立たなくなると、優秀な人材がジャーナリストにならず、取材にもコストをかけられなくなるので、メディアが政府を監視する役割を果たせなくなるかもしれない。

 量的には、既存のメディアの没落を埋め合わせて余りある大量の情報がネット上で供給されるだろうが、プロフェッショナルの書いた文章とアマチュアの書いた文章は歴然と違う。没落する旧メディアに代わって、新しいメディアを育てるインフラが必要だ。私の運営している「アゴラ」も、そのささやかな試みだが、グーグルの広告がないと営業が成り立たない。

 産業社会の基礎は排他的な財産権にもとづく取引だが、これからやってくる情報社会の基礎は情報の共有である。これは技術的には合理的だが、すべての情報を共有しては生活が成り立たない。グーグルは情報を共有しながらビジネスを成り立たせるインフラである。ネットビジネスは、まだ模索が始まったばかりだ。かつては株式会社が産業革命のインフラになったが、情報革命のインフラを建設する仕事はまだ一合目ぐらいだ。マイクロソフトや楽天がグーグルに競争を挑むなら、政府に泣きつくのではなく、もっと優れたプラットフォームをつくるイノベーションで闘ってはどうだろうか。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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