公取委が承認したグーグル・ヤフー提携
日本のヤフー(Yahoo! JAPAN)が検索エンジンにグーグルを採用する問題で、公正取引委員会は2日、「独禁法上問題なし」との結論を出した。何もしないのに記者会見を開くのは異例だが、これはマイクロソフトや楽天などが「両社の提携で検索のシェアが9割を超える」と、公取委に調査を要求していたためだ。今後も調査を続けるとしているが、これでひとまず両社の提携はOKになり、すでにヤフーはグーグルのエンジンを使っている。
独占禁止法における「市場」の定義は難しい。たしかに検索広告だけを取れば、グーグルは世界市場のガリバー的存在だが、日本の広告業全体での市場シェアは数%程度と推定される。ヤフーも同じようなものだから、両方を合わせても1割未満で、独占の弊害は考えにくい。検索広告の料金はオークションで決まるので、両社がカルテルを結んで広告料金を吊り上げることもできない。
公取委の結論については、日本の専門家からも異論があり、「個人情報をグーグルが独占して多くのサービスに使い回す」とか、「ウェブ上の情報の優先順位を外資が決めていいのか」といった議論もあるようだ。たしかに、Gmailなどで膨大な個人情報をグーグルがもってユーザーを囲い込んでいることは事実だが、それを言うならマイクロソフトのWindowsも同じだ。実際に弊害も出ていないのに、想像上の問題を根拠に提携を差し止めることは困難だろう。
公取委が提携を止めても、グーグルと競争できる検索エンジンが日本から出てくることは考えられない。それよりも大事なのは、グーグルに代わる新たなプラットフォームを創造することだ。かつてWindowsがガリバー独占になったとき、アメリカの司法省はマイクロソフトを相手に訴訟を起こし、2000年にマイクロソフトの分割を命じる一審判決が出た。しかし共和党政権になってから司法省の責任者が交代し、一転してマイクロソフトに有利な和解で決着した。
このときは司法省の「政治決着」が批判されたが、その後マイクロソフトはネット事業で失敗し、検索ではグーグルに大きく引き離された。既存のプラットフォームで優位にある企業は、その優位を守ろうとするあまり、新しいプラットフォームを軽視して敗れる傾向が強い。かつてIBMは大型コンピュータを守ろうとしてマイクロソフトに敗れたが、マイクロソフトも同じ「イノベーションのジレンマ」に陥ったのだ。本質的なイノベーションは、こうしたプラットフォーム競争によって起こる。規制によってイノベーションを生み出すことはできない。

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