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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第17回

グッドスマイルカンパニー安藝貴範社長に聞く

ブラック★ロックシューターが打ち砕いたもの(2)

2010年12月07日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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テレビ抜きでどう宣伝するか?

まつもと「昨今はテレビをファーストウィンドウとせず、インターネットを起点として、フィルムサイズの小さな作品からビジネスを組み立てようということに、色んな人が取り組んでいます。

いわゆる“30分1クール”というアニメの定型から外れていた「イヴの時間」は、ファーストウィンドウにネットを選択した(画像は劇場版ポスター)

 先行事例を作った方としてアニメ『イヴの時間』プロデューサーの長江努氏にもインタビューしました(関連記事)。

 その際に長江氏が問題にしていたのは、作品をどうやって世の中に知ってもらうかという点です」

安藝「まさにそれですね」

まつもと「テレビの場合、50分1話のみという形態は中途半端。観てもらえない。そもそもテレビにかけられなかったりします」

安藝「だいぶかけやすくはなってきましたけど、観てもらえないのは確かです」

まつもと「なんだかんだ言っても、地上波・U局の視聴率は圧倒的です。ネットがテレビを負かす、なんて簡単な話じゃありません。今回、ブラック★ロックシューターはDVD無料配布から始まりましたが、ファーストウィンドウにネットを選択しなかった理由をお聞かせ願えますか」

安藝「展開に関しては悩みました。でも自信はあったんです。端的に言えば、フィギュアに映像をくっつけて売ってしまえば、回収はできる」

まつもと「おお、確かに!」

安藝「そのほうが堅い――このまま言うとファンに怒られますけども(笑)、確信はありました。こっそりフィギュアにDVDを同梱することもできますよね。DVD分の値段は付けられませんが(笑)。

 ただ、それが正しいのか、あるいは最終的に共感を呼ぶのかと考えると、不安が大きくなりました。だからと言って、おっしゃる通り、テレビで1回かけたところで告知効果は怪しい」

まつもと「結構お金もかかりますし」

安藝「とはいえ、ネットで観るアニメの心に残らない具合には不安がある。店頭DVDの流し見と大差ないんじゃないか? とか。ヘタするとそこから『ストーリーは把握しました。さあ次は気にくわない箇所に文句を言いましょう』みたいな叩き芸に発展しかねない。」

まつもと「グッドウィルが育っていかないですよね」

安藝「そう。ユーザーに支持してもらったという気持ち、もしくは作り手側にサンキューと言う気持ちが育っていかない。何かしてもらった、それに対して、何をしますか? という、まつもとさんのおっしゃる“グッドウィル”が成立しないんじゃないかという不安がインターネット配信に対してはありました。

 ニコ動でコメント付けながら楽しく遊ぶスタイルも新しくて面白いんですけどね。そこまでの余裕は当時ありませんでした。もちろん、地方ではアニメがなかなか流れませんから、せめてネットで見せてよという意見は別の議論としてありますが。いずれにせよ、ネットだけで、というのは不安が強かった」

雑誌の付録にするという合理性

まつもと「ではブラック★ロックシューターをDVDで無料配布したいきさつを聞かせてください」

安藝「ご飯食べながら何の気なしに、タダにしてみるかという会話から始まりました。すでに本に付けるモデルは考えていたんですけど、そのコストまでは負担できない、というのが正直なところでした」

まつもと「ネット配信なら無料、場合によっては配信会社から逆にお金をもらえることだってありますよね」

安藝「ええ。そこで出版社に友人(ホビージャパン取締役の星野孝太氏)がいたので、相談してみたんです。

 『ねえ星野さん、今作ってるブラック★ロックシューターを星野さんとこで本に付けたりしたら、どうですかね?』って。そうしたら、興奮してすごくいい反応してくれたんです。あれれ? って間に話が進んじゃった(笑)」

まつもと「発行部数も増えるだろうし、瞬間的に電卓を弾かれていたわけですね」

安藝「DVDを付けるノウハウはあるはずなので、計算があっと言う間にできたのだと思います。それにタイミングも良かった。雑誌ってここ10年くらい付録が盛んですが、模型誌の場合はオマケとしてフィギュアを付けてもこれ以上新規ユーザーが伸びないという悩みがあったんです。

 だからアニメDVDならば新規ユーザーが取れるんじゃないかというところで興味が出たのだろうと思います。偶然、先方に苦しみがあったところにそれを放り込めた。

 で、まだこちらとしては相談の段階でしたが、星野さんがどんどん社内決裁を通してしまった(笑)。しかもコストは全部ウチで負担しますという力強い言葉をもらったわけです。では、ということでまずホビージャパン誌が決まりました。

 そして年少向けのアニメディア、コア層向けのメガミマガジンを擁する学研さんを含めて、合計3誌でいってみようということになったわけです」

次回予告

 次回はセカンドウィンドウ以降の展開、そしてブラック★ロックシューターが切り拓いたビジネスモデルの未来について安藝貴範社長に語っていただく。

著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。12月10日にはアスキー新書より「生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ」が発売。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto

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