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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第10回

その1:「人類の敵らしいもの」との対話

機動戦士ガンダム00と、2つの「対話」 【前編】

2010年12月04日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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対話とは、「分かり合う幅」を決めること

水島 相互理解とか、分かり合うということに対して、一番夢のある分かり合いというのは、双方が相手のことを好きになってくれることですよね。すべてを理解し合い、すべてを許し合う。

 それが一番いいんでしょうけど、相手によっては必ずしもそうはならないことが出てくる。だから「分かり合う」という定義の幅を非常に大きく取る必要があると思うんです。そういう意味では今の社会だって、分かり合っている部分がすごく大きいと思います。

―― 今の社会は分かり合っていると?

水島 そうだとは思います。理想の形ではないでしょうけれども。確かに核を用いた政治的な駆け引きは行なわれているしキナ臭い動きもあります。でも日本と周辺の国だけの話で言えば、「戦争が起きていない」というのがひとつの平和の形、対話の形ですよね。

 お互いがお互いの触れてほしくないところを含めて理解し合えると、そこは避けることができる。最低限の分かり合いは可能だなと。どちらが上か下かではなく、どちらかが強く主張してしまうのをなくすための対話という。平和に物事を運ぶために、お互いの利害を一致させることは、話し合いの中で絶対にできると僕は信じているんですね。それが分かり合うことだと思うんです。

 「やり方」が違っても、「目的」が同じならば通じ合える。作中でも、刹那とマリナの関係でそういうところを描きました。刹那とマリナはずっとすれ違っている。

―― なぜ、ふたりはすれ違うのでしょうか。

水島 平和の実現という互いの想いを理解してはいるけど、ふたりとも、自分のやり方を最後まで貫くからでしょうね。同じ目的がありつつも、刹那は武力を抑止力に対話を実行するし、マリナは常に平和主義を貫いて、たとえ銃を突きつけられても、自らは一切、武器を持たない。

 脚本の黒田(洋介)くんともよく話し合ったんだけど、黒田くんは、「刹那とマリナは、お互いにすれ違っている部分も含めて、理解しようとしていることが大事」ということを僕によく言っていたんです。

 お互いが相手のことを理解はしているんだけど行動には接点がなくて、互いに違ったやり方をしている。でも、対話したいという共通の願いがある限り、導き出せるものというのは絶対にあるから、という。

 ダブルオーも、ガンダムシリーズに連なるものとして考えれば、「人対人」にしたほうが、分かりやすかったかもしれない。でも、分かりにくいものを題材にして、「対話」が成功すればもっとうれしいんですよ。

―― それは何との対話ということになりますか。

水島 お客さんとの対話ですよね、それは。……おせっかいな性分だなと自分でも思うんだけど、作品を見てくれる若い人たちに、コミュニケーションの良さをわかってほしいなと常々思ってしまってるんです。

 自分がずっとこの年齢まで生きてきた中で、人と人のコミュニケーションがすごく大事だなと思うから、分かり合うために心を開こうよとか、頑張ってみようよとか。自分が相手を知ろうと思うことで、相手にも知ってもらうことができて理解し合えるんだよとか、変に斜に構えずに、ちょっと勇気を出してどんと前へ踏み出そうよ、というようなことを言いたいわけです。

 苦手な相手はどこまでいっても苦手かもしれないけど、苦手な人とだって、どこまでの幅なら友好的に付き合えるかを考えてみたり。ある程度の距離感というのがありながら、ちゃんと相互が相手のことを理解して付き合えれば、そう簡単にもめ事とかけんかって起きないわけで……。

 目先のやり方の違い、立場の違いにとらわれすぎないで、本来の目的のために手を取り合おうよ、と。

―― それは普通のようでいて、すごく難しいですよね。

水島 難しいです。でも、そうすれば分かり合うことができるでしょうという、夢だから。

―― ……夢!

水島 うん。だからそれを映画としてテーマにしたいわけです。ダブルオー以外でもいろんな作品でこれからも語っていきたいと思います。自分だって、他者との対話が怖いし難しいことは分かっているけど、できないと思ってしまったら本当にできないよね、と。

 物語の主人公たちは、それを簡単なことだって言い切って飛ぶ。でも僕はそれは強がりだと思うんです。でも、言い切るから夢があるんですよ。映画の最後は、ハッピーエンドに向けて、力業でもっていっています。難しいけど、そうしないと争いって絶対に起こるのは、人類の長い歴史で証明されているから。

 結局、戦争を起こさないシステムというものが発明できたら、それはノーベル平和賞もので、そんなの一介のアニメ監督が思い付くわけないじゃんという。たった1人の脳みそで何とかなるんだったら、もうなっとるっちゅうねんという(笑)。

 だから、みんなで考えようよ、ということを伝えたいわけです。このフィルムで。


■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)

 1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。

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