「悪人」が輝いたっていいじゃないか
日本人は「敗北」に感動する 高校野球アニメ「おお振り」の意図 【後編】
2010年11月20日 12時00分更新
リスクを考えない若さ
―― 浦和西高校では何が記憶に残りましたか。
水島 野球部の練習風景とか学校内の様子の参考にするために、何度も見学に行かせてもらいました。あと野球の音を録りにも行きましたね。
野球の音なんですが、普通に録音していたのでは録りづらい音というのがあるんですよ。ジャストミートじゃなくて「当たり損ねの音」。それを録らせてほしいと言うと、わざわざ音のために実際にやってくれて。危ないんですよね、当たり損ねの音って。でも、そんな無茶なことを全部やってくれるんですよ。
「ワンバウンドした球をキャッチャーがプロテクターで受け止める」というのもあって、ドスッとか、ガスッとか、ちょっと見ていて痛そうで、こちらが「もうそのくらいでいいから」って言うぐらいまで全部やってくれました。
―― それはすごいですね。なぜそこまでやってくれるんでしょう。
水島 素直なんですよ。すごく。あんまりリスクとかを考えないですよ。大人みたいに損があるんじゃないかみたいな、ブレーキとかもない。考えてみれば、野球をやることじたい、損得でやってるわけではないですから。その計算のなさも、輝いている理由のひとつという気もしますね。
そういえば僕も、高校時代には自主映画を撮っていたんですが、あれだって何の得があるかなんて考えたことなかったですね。上映会はあっても、コンテストに出るわけでもないし。誰かに見せるとか、パフォーマンスなんて全然なくて、もう撮りたくてしょうがない、何か作りたい、そんな気持ちでやっていましたから。
今はもう、そういう一途さだけではやっていないですからね、大人になってしまったので。だから、若さにジェラシーを感じてしまうんです!
(c) ひぐちアサ・講談社/おお振り製作委員会
大人は「一生懸命」を隠してしまう
水島 あと、大人になると「一生懸命さ」って表に出さないじゃないですか。一生懸命でも隠す。一生懸命を出すとしたら、計算して頑張っているアピールをするとか。そういうのが高校生だとない。隠さないし、そこが素敵なのかな。泣くときは泣くしみたいな。
―― 大人になると、「他人の目」に無自覚ではいられないのかもしれません。
水島 そうですね。大人になると「一生懸命」というのは自然に隠しますよね。だから逆に、大人でも必死な状態の人を見ると、すごく素敵だなと思いますね。最近見かけたんですけど、警察官の人が突然何かで呼ばれて、いつもは玄関に置いてある自転車に乗って、ものすごい立ちこぎで、ぶわーって走っていったんですよ。しかも、顔が必死なんです。普通、大人ってどんなに急いでても立ちこぎはしないじゃないですか。素敵だなと思いましたね。
それは本当にのっぴきならない事情というか。明らかにヤバイことが起きたというのを隠せないくらい必死で。普通、大人はヤバイときほど表情を隠しますよね、ものすごく。逆に、その必死さを隠さなかったり、隠してるけどポロリと出たり、そういうところに愛おしさを感じます。
―― 当人にとっては大変な状況であるにもかかわらず、その必死さが良いと。
水島 本人にとっては悪い状況でも、「輝いている」ということは素晴らしいと思うんです、傍から見て。
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