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TECH担当者のIT業界物見遊山 第19回

「ならでは」が鍵?データセンターは地方を目指す

2010年11月15日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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クラウド時代の到来を見据えた第2次データセンター建設ブームのなかで、都心ではなく、あえて郊外・地方にデータセンターを建築する動きが増えつつある。コスト削減が大きな理由ではあるが、必ずしも都心である必要がなくなったという事情もある。

データセンター移転の最大の理由はやはりコスト

 新設される地方データセンターとして著名なのは、やはり6月に発表されたさくらインターネットの北海道石狩データセンター、そして8月に発表されたIIJの松江データセンターであろう。先週には、日本ユニシスが福井県の小浜市にデータセンターを建設することを発表している。

 今までデータセンターというとネットワーク回線が集中し、多くの企業が事務所を構える都内が一般的であった。郊外・地方のデータセンターは、あくまで災害対策でのバックアップセンターとしての利用がメイン。都内でのデータセンター需要はいまだに高く、この2年で10箇所以上のデータセンターが建設される予定だ。

 その一方で地方移転への動きも確実に存在している。その理由はコストである。クラウドコンピューティングにおいて顧客の求める要件は、やはりコストの削減。そのため、クラウドの基盤となるデータセンターにおいては、さまざまな施策を行ない、コスト削減圧力に対抗していかなければならない。もちろんコストだけを下げるのであれば、海外移転という手もあるのだが、日本の顧客はとにかく国内データセンターにこだわる。そのため、都心に比べて土地代が圧倒的に安い郊外や地方にデータセンターを建築し、コストを下げるわけだ。

 電力コストを下げるという点でも、地方移転は有効だ。さくらインターネットの石狩データセンターは、北海道の寒冷な気候を利用した外気冷却を全面的に導入する。これにより、空調設備や冷却コストを大幅に抑え、PUE(Power Usage Effectiveness)を大きく改善する予定だ。さらに電力に関しては、電源立地地域では補助金・交付金が適用されるほか、各地域の電力会社が好条件で電力を供給してくれるという。

 なにより、水面下でのデータセンターの地方への誘致合戦はかなり激しいようだ。「毎年、地方自治体の担当者の方から、かなりの数の年賀状が来るようになりました。(年賀状に載っている)動物園のシロクマから吹き出しで『建設よろしく!』といわれると、断るのはやや心苦しいです」とあるデータセンター事業者の担当者は語る。「クラウド特区」という話も出ているが、早い段階で実績を作っておきたいという思惑も見え隠れする。いずれにせよ、地方への移転には地方自治体の強力なプッシュも大きな要因だ。

クラウドであれば都内には必要ない?

 データセンターの地方移転の背景には、コスト削減という事情もあるが、必ずしもデータセンターが都心にある必要がなくなったのでは?とも考えられる。

 たとえば足が悪いという弱点に関しては、地方データセンターはエンジニアの入室をあまり前提としていない。そもそもクラウドコンピューティングのインフラにおいては、リソースの割り当てや解放などもすべて自動化されるわけで、現地にエンジニアが行なう作業はハードウェアの交換など限定的なオペレーションに限られる。もちろん、現場でのシステムインテグレーション作業が多い場合は、アクセスのよい都心型データセンターを選べばよい。実際、遅延の少なさを重んじる金融系の顧客はほぼ都内に固まっているという。一方、コスト重視でメンテナンスが少ない場合は、地方データセンターで十分事足りるだろう。

 また、地方においては必ずネットワーク回線の貧弱さやコスト高が課題に上がるが、地方自治体によっては自前の光ファイバー網を安価に借りられるところも多いし、通信コストの一部を肩代わりしてくれるところも存在する。

 このように今後、利用価値の高まった地方データセンターはデータセンター事業者の1つの切り札になってくるだろう。コールセンターと異なり、雇用の確保という面ではやや振興力は弱いが、地域でのITの活性化などには大きく貢献しそうだ。どうせだったら、ハイセキュリティな無人離島データセンターとか、地熱・水力発電フル活用データセンターとか、陸揚げ海底ケーブル直結データセンターとか、「ならでは」の個性的なデータセンターを目指してもらいたいところだ。

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